膵β細胞における慢性的な低酸素ストレスは糖尿病の病態に関与している可能性がある。しかしながらその低酸素応答メカニズムについては不明な点が多い。申請者は予備的検討において、慢性低酸素下の膵β細胞ではプロリン水酸化酵素PHD3が高発現していることを新たに見出した。本研究では長期的低酸素培養下や糖尿病病態下の膵β細胞においてPHD3がどのような役割を果たしているのかを解明することを目的としている。 令和2年度には、糖尿病病態下の膵β細胞におけるPHD3の機能を解明するために、肥満型の糖尿病を発症する遺伝的バックグラウンドを有するモデルマウスにおいてPHD3を膵β細胞特異的に欠損させたマウス個体を作出した。PHD3を欠損した肥満型糖尿病マウスでは、耐糖能が悪化していることが判明し、PHD3は糖尿病病態に関与していることが明らかになった。 令和2年度から3年度にかけてそのメカニズムの検討を実施した。PHD3を欠損した肥満型糖尿病マウスでは耐糖能の結果に反してコントロール群よりも若干の膵島の肥大が確認されているが、現状ではまだ十分な解析マウス数に至っていない。またPHD3が膵島量に及ぼす原因を解明するためにマウス膵島における細胞増殖能および細胞死を評価する実験系を確立した。 慢性低酸素下における低酸素誘導因子の存在は知られていない。申請者は糖尿病マウスを用いて、β細胞のPHD3が血糖値に影響を及ぼす因子であることを解明した。PHD3が糖尿病下のβ細胞においてどのような役割を担っているのかについては現状ではまだほとんど検討できていないため。今後その分子メカニズムの詳細を解明していく必要がある。
|