研究課題/領域番号 |
20K17539
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
比嘉 涼子 大分大学, 医学部, 助教 (10819642)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ニューロメジンB / ガストリン放出ペプチド / エネルギー代謝調節機構 |
研究実績の概要 |
本研究では、褐色およびベージュ脂肪細胞の活性化を含む全身のエネルギー代謝調節機構におけるニューロメジンB(NMB)およびガストリン放出ペプチド(GRP)の機能を明らかにするため、独自に作製したNMB/GRP両遺伝子欠損マウス(dKO)の詳細な解析を行う。 本年度は、普通食摂餌下および高脂肪食摂餌下における野生型マウス(WT)とdKOマウスの表現型解析を行った。その結果、通常食摂餌下ではWTマウスとdKOマウス間で有意な体重差は認められなかった。一方で、高脂肪食摂餌下においては、WTマウスに比べdKOマウスでは体重増加量の有意な減少が認められた。さらに、高脂肪食摂餌下における両マウスの褐色脂肪組織、皮下脂肪組織、内蔵脂肪組織および肝臓の組織重量を解析したところ、dKOマウスではWTマウスに比べ、肝重量が有意に減少しており、HE染色による形態学的解析により、脂肪滴蓄積の減少も認められた。摂餌量については普通食摂餌下においては両マウス間で顕著な差は認められなかった。高脂肪食摂餌下においては、dKOマウスはWTマウスに比べ摂餌量の減少傾向が認められた。さらに、dKOマウスは高脂肪食摂餌下において、酸素消費量の有意な増加が認められた。このことから、NMBおよびGRP遺伝子の欠失によって、高脂肪食摂餌による摂餌量の抑制、エネルギー消費の増大および肝臓への脂肪蓄積の低下が生じ、抗肥満効果を持つことが示唆された。褐色脂肪細胞およびベージュ脂肪細胞の活性化は全身におけるエネルギー代謝量の増加や肥満などの代謝異常を改善する作用を持つことが報告されていることから、NMBおよびGRP遺伝子の欠失によってこれらの熱産生細胞が活性化している可能性が示唆される。今後、NMBおよびGRPと褐色およびベージュ脂肪細胞の活性化を含む全身のエネルギー代謝調節機構との関連をより詳細に検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はNMB/GRP両遺伝子欠損マウスの解析により、NMBおよびGRPの欠失によって高脂肪食摂餌下における体重増加量の減弱、肝臓脂肪蓄積量の減少およびエネルギー代謝量の増大という表現型を示すことを明らかとし、NMBおよびGRPがエネルギー代謝調節を制御している可能性を示唆する結果を得た。次年度はこれらの知見をもとにエネルギー代謝調節と脂肪蓄積制御に焦点をあて、NMB/GRP両遺伝子欠損マウスを用いてより詳細な分子機構の解明を行っていく予定である。また、NMB/GRP両遺伝子欠損マウスの脂肪組織由来の間質血管画分(SVF)を用いたin vitroでの熱産生脂肪細胞活性化動態および脂肪蓄積動態の解析も行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は高脂肪食摂餌におけるNMB/GRP両遺伝子欠損マウスの抗肥満の表現型について明らかにすることが出来たので、次年度はその詳細な分子機構について明らかにすることを目標とする。まず、糖負荷試験や生化学的解析によって、糖代謝や脂質代謝などの体内動態について解析を行う。さらに、絶食時や過食時におけるNMB、GRPの発現動態および中枢性のエネルギー代謝調節機構について、視床下部を中心とした脳部位の免疫染色ならびに遺伝子発現解析によって検討する。また、NMB/GRP両遺伝子欠損マウスの褐色脂肪組織、鼠蹊部皮下脂肪組織、性線周囲内臓脂肪組織の間質血管画分(SVF)から脂肪前駆細胞を初代培養し、成熟脂肪細胞への分化誘導後の細胞形態解析およびFABP4などの成熟脂肪細胞マーカーやUCP1などの熱産生脂肪細胞マーカー分子の発現動態についてWestern blotting法ならびにqPCR法にて解析し、NMB/GRP遺伝子欠損脂肪細胞における分化能や熱産生能についてin vitroでの検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、大分大学の動物施設改修に伴い、実験マウスのクリーニングのための予算として確保していたが、改修計画の変更により、実験マウスのクリーニング作業が来年度に繰り越しとなった。また、COVID-19の影響により、学会参加がオンラインとなり、旅費については予定していた予算使用がなくなったため、次年度使用額が生じた。 次年度に実験マウスのクリーニング費用として用いるとともに、抗NMBおよび抗GRP抗体の購入または作製の費用に充当する予定である。
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