乳がんの約 80% を占める「エストロゲン受容体(ER)陽性乳がん」のなかには、ホルモン療法の効果が低く、予後不良なものが存在し、その治療成績の向上が緊急課題となっている。最近、BAG2 という分子が、乳がんの転移に深く関与していることが報告された。BAG2 遺伝子は、プロ・カテプシンB という遠隔転移促進因子の分解を妨げることで、乳がんの転移を促進することが報告されている。これらの知見を踏まえ、BAG2 遺伝子の発現亢進が、ER 陽性乳がんに対するホルモン療法抵抗性に関与している可能性に着目した。 私たちは、当施設の乳がん症例を用いて、BAG2 遺伝子発現と予後との検討を行った。予備実験の結果では、 BAG2 遺伝子高発現の患者は予後不良であり、乳がんにおける独立した予後不良因子であることが示された。さらに、術後ホルモン療法を行った ER 陽性乳がんにおいても、BAG2 遺伝子高発現の患者は予後不良であった。一方、ER 陰性乳がんでは、BAG2 遺伝子発現と予後に相関はみとめなかった。 上記の結果を踏まえて、症例数を増やし観察期間を延長したところ、BAG2 遺伝子発現と予後に有意差を認めず、ER 陽性症例においても同様の結果が得られた。また、BAG2 遺伝子発現とカテプシンB やカスパーゼ3 遺伝子発現との相関関係について検討を行った。BAG2 遺伝子発現は、カテプシンB 遺伝子発現との相関は認めなかったが、カスパーゼ3 遺伝子発現との相関関係を認めることが示された。
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