本研究は動物体内環境で移植可能な固形臓器を作出するための基盤研究である。研究手法として、遺伝子工学的手法で特定臓器の欠損動物を作製し、その欠損動物の受精卵の胚盤胞期に多能性幹細胞を注入する胚盤法補完法で臓器作出を試みた。発生段階で肝臓欠損の表現型となることが知られている、Hematopoietically expressed homeobox(以下Hhex)ノックアウトマウスを用いた同種胚盤胞補完法による検討を進めた。EGFP発現マウス由来ES細胞を注入して、個体発生が得られたマウスキメラ胎仔胎生11.5日の解析で、同腹仔のHhexヘテロノックアウト胚由来のキメラは胎仔繊維芽細胞と肝芽細胞のキメリズムが同率であったのに対し、Hhexホモノックアウト胚由来のキメラでは肝芽細胞がドナーES細胞由来に置換されることを確認した。また、同種胚盤胞補完法により作出したHhexホモノックアウト胚由来のキメラは成体まで正常に発育することを確認した。研究の成果として、多能性幹細胞の分化の場となる肝臓欠損の環境がHhexの制御で実現できることを明らかとした。しかしながら、胚盤法補完法によりHhexホモノックアウト胚由来のキメラ形成確立が当初の期待よりも低く、安定した個体の作出にはさらなる検討が必要と思われた。最終年度には、同じく動物体内環境で異種臓器を作成する手法として、生体内で肝実質細胞を自律的に生着させることで、移植対象とする個体(ヒト)の臓器を構築する技術開発も並行して行った。我々は、現在利用されているヒト化肝細胞モデルマウスにさらなる遺伝子改変を加え、100%のドナー肝細胞置換を期待できる動物モデルを作製した。最終年度にこのマウスを用いた同種肝細胞移植の結果、ほぼ100%の肝細胞をドナー細胞由来に置換できることをフローサイトメトリー、digital PCR、免疫組織学染色で確認した。
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