研究課題/領域番号 |
20K17592
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
永山 愛子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (00573396)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | CRISPR/Cas9 / 乳癌 / サイクリン依存性キナーゼ / Drug screen |
研究実績の概要 |
本研究は、CRISPR/Cas9のゲノム編集技術を用いてWhole-genome knockout screenを行うことで耐性遺伝子を網羅的に探索し、ホルモン受容体陽性HER2陰性乳癌細胞における内因性のCDK4/6阻害剤耐性の原理を明らかにすることを目的としている。CDK4/6阻害剤は、近年転移再発性のHR 陽性乳癌において、内分泌療法との併用が、前向きランダム化比較試験で約10か月の無増悪生存期間(PFS)の改善傾向を示し、標準治療として確立した。その有効性が明確に示された一方で、耐性の獲得が問題となっている。 2020年度は、CRISPR/Cas9 knockout screenを実行するのに必須となる、至適実験条件の確認を行った。具体的には、本研究のモデルでありホルモン受容体陽性HER2陰性乳癌から確立されたMCF7の最も効率的な細胞増殖が得られる細胞密度と倍加時間を確認した。次に、レンチウイルスによるライブラリーの感染の最適な条件を確認するため、遺伝子導入の効率を向上させるポリブレンの至適濃度を決定し、遺伝子導入細胞のみを選択的に生存させるために必要な抗生剤(puromycin, blasticidin)の至適濃度を決定した。これらの確認を行ったうえで、MCF7にゲノム編集におけるDNA切断を担う酵素であるCas9蛋白の導入を行い、安定的な発現とその酵素活性を確認した。Cas9-MCF7に対してwhole genome libraryを導入する際に必要なレンチウイルスベクターの用量を確認し、望ましい感染効率を獲得できることを確認した。 CDK4/6阻害剤の一種であるパルボシクリブを用いて、細胞増殖阻害実験を行い、knockout screenを行うのに最適な濃度を決定した。現在knockout screenを行うのに必要なライブラリーの増幅を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は2020年度にwhole genome knockout screenを行うことを目標としていたが、その準備段階までの進捗状況となった。一般的に、細胞増殖に依存したアッセイであるCRISPR/Cas9のゲノム編集のdrug screenでは、増殖が強い細胞でより安定的な結果が得られやすい。MCF7は乳癌の中でも比較的増殖能の低い、ホルモン受容体陽性HER2陰性のサブタイプであり、Cas9の導入やその酵素活性の確認に難渋し時間を費やした。現在knockout screenを行うのに必要なlibraryの準備中であり、これが整えば直ちにscreenを行える状況となっている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究のdrug screenでは、CDK4/6阻害剤であるパルボシクリブとの共培養を3週間程度行い、最終産物からgenomic DNAを抽出し、PCRで増幅させた上で次世代シーケンサーで解析を行う。どの遺伝子をknockoutした場合にパルボシクリブに対する耐性を獲得し、細胞増殖を維持したのかを確認することが可能となる。耐性の原因遺伝子を同定した後は、その耐性遺伝子を単一でknockoutし、パルボシクリブに対する耐性が確認できるか、in vitroおよびin vivoでのvalidationの実験を行う。また、パルボシクリブ以外のCDK4/6阻害剤(アベマシクリブ、リボシクリブなど)に対する耐性も同様に獲得されているのかを確認する。MCF7以外のホルモン受容体陽性HER2陰性細胞株でも耐性の有無を評価し、普遍的な耐性獲得であるのかを評価する。過去の研究で指摘されていない、新たな耐性遺伝子を同定できた場合には、その機能解析を行うことで、乳癌におけるCDK4/6阻害剤に対する耐性原理の解明を行う。耐性原理を確認した後には、それを克服する併用療法や、治療効果・耐性を予測するバイオマーカーとしての開発を行い、臨床における問題解決の一助につなげていくことが本研究の目指す方向性である。
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次年度使用額が生じた理由 |
Whole genome libraryを用いたCRISPR/Cas9 knockout screenの実行が次年度に延期したため、翌年度に物品の購入を行うことになった。
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