胆嚢癌は未だ予後不良な疾患であり、集学的治療の確立が急務である。近年、programmed cell death ligand 1(PD-L1) を新規治療標的とした癌治療開発が各癌腫で進んでいるが、胆嚢癌における報告は乏しい。 まず、進行胆嚢癌におけるPD-L1発現が根治切除後の有用なバイオマーカーとなり得るかを検討した。2003年から2016年に当科で手術を施行したT2以深の胆嚢癌94例を対象に、腫瘍細胞におけるPD-L1発現を免疫組織化学染色にて評価した。腫瘍細胞におけるPD-L1 発現の陽性率は38.3%(36例)であった。PD-L1陽性例では陰性例に比べ有意にリンパ管・静脈浸潤、リンパ節転移、肝転移が多く、術前の胆管ドレナージ不全と有意に相関した。また、腫瘍先進部におけるCD8陽性T細胞高浸潤群のサブグループでは低浸潤群に比べ有意に全生存期間の延長を認めたが、同サブグループにおける多変量解析にてPD-L1発現は独立した予後不良因子であった。さらに、腫瘍細胞におけるリン酸化NF-κB-p65の核内発現とPD-L1発現に正の相関を認めた。次に、胆嚢癌におけるPD-L1調節機構の解明のため細胞実験を行った。2種類の胆嚢癌細胞株にTNF-α刺激を加えたところ、NF-κB活性亢進を介したPD-L1発現の増強を認めた。さらに、増強されたPD-L1発現はNF-κB阻害剤の添加により抑制されることを確認した。 以上より、進行胆嚢癌においてPD-L1発現は有用なバイオマーカーとなり得ることが示唆された。また、胆嚢癌におけるPD-L1発現は胆管炎や閉塞性黄疸等の腫瘍微小環境の炎症により惹起され、抗腫瘍免疫の抑制を介し腫瘍進展に寄与すると考えられた。炎症性転写因子を治療標的とすることでPD-L1発現制御を介した新規の癌免疫療法の可能性が示唆された。
|