研究実績の概要 |
これまでの研究実績:ヒト膵癌微小環境にはTGFβ1関連の筋線維芽細胞(myCAF)とIL-1関連の炎症関連線維芽細胞(iCAF)の2種類が存在するとされる。我々は腫瘍部分由来膵線維芽細胞(tPFB)8例と正常部分由来膵線維芽細胞(nPFB)3例を細胞株として樹立することに成功した。 最終年度の研究成果:tPFBとnPFBそれぞれの遺伝子発現の特徴は、myCAFマーカー(TGFβ1、α-SMA)に差はないが、nPFBにおいてiCAFマーカー(IL-1、IL-6)がtPFBの数十倍高いことを発見し、表現型の異なる2つの線維芽細胞株の樹立に成功した。次に、tPFBは癌の進展に関与していることが予想されたため、膵癌細胞株(T3M-4, MIAPaCa-2)との相互作用を解析したところ、非接触型共培養を行うことでiCAFマーカーが数百倍に上昇することを発見した。これはIL-1αをtPFBに作用させた時と同じ結果であった。in vitroで膵癌細胞株とtPFBの共培養による膵癌細胞の増殖能の変化を検討すると、tPFBによる増殖促進効果は認めなかったが、in vivoでヌードマウスに対する癌細胞と線維芽細胞の共移植を行うと、癌単独と比較して非常に早い腫瘍増大を示すことを発見した。 研究成果:ヒト膵癌由来およびヒト正常膵由来線維芽細胞株を樹立できたことで、前臨床で癌細胞と線維芽細胞の相互作用を解析する手段を得た。また、癌由来の線維芽細胞は実際にin vivoで腫瘍増大に寄与することを発見した。現在、盛んに研究されているCAFの不均一性の証明と一致して、表現型の異なる2種類の線維芽細胞株を樹立することができた。これらの細胞の表現型、機能の違いを解析することで、今後CAFの癌との相互作用について研究していくことが可能となった。
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