研究課題
手術支援ロボットの普及がすすみ、各消化器外科領域での新規適応および一部術式の保険診療点数の増加がみられる。特に振戦がない、多関節機能といった利点が注目され、一部の術式においては従来の内視鏡手術に勝る短期成績が報告される。いっぽう、その欠点として触覚が皆無であることがあげられる。今後のロボット手術の普及には、若手外科医でも容易に参画できるということが重要なポイントであり、触覚を伴ったロボット手術はこれらの問題を解決するブレイクスルーとなりうる。こういった点も踏まえ、包括的な本研究の目的は触覚センサーを有する手術支援ロボット用鉗子の開発によって外科医にとってよりエルゴノミックな手術環境を整え、手術のアウトカムにフィードバックすることである。我々が着目する触覚システムである本研究で導入予定のFingerVisionシステムはマーカーの微細な動きを捉えた小型カメラの画像を解析することで操作している物体の情報や動き(滑り・変形)といった情報を歪みとして捉え、触覚に換算する。このFingerVisionはすでにヒューマノイドロボットにおいて実績がありかつ比較的安価な、実現性の高いシステムである。これを応用してロボット手術用の有触覚鉗子を作成することは外科医の負担を減らし、質の高い医療を患者に還元できる点で非常に意義が高い。当該年度に実施した研究の成果としては、3Dプリンターを用いて簡易ロボット鉗子をデザイン・作成し、超小型カメラの実装に備える段階に至った。
3: やや遅れている
ヒューマノイドロボットの手と異なり手術用鉗子先端の面積はかなり小さく、その範囲におさまる小型カメラの最適化が困難で、安価で性能が本研究の目的に耐えうるものを模索中である。また、術中の外科医が感じるストレスを数値化するとまばたき数と相関するといわれており、まばたき数の他、脈拍数、眼振の程度、体幹の揺れといった様々な被験者の生体情報を、眼電位センサーと体幹センサー搭載のメガネ型ウエアラブルコンピュータ(ジェイアイエヌ社JINS MEME)を用いて手術操作中の外科医から収集しストレスを評価する予定であるが、JINS MEME社のメガネ型ウエアラブルコンピュータがversion upのため一度生産・受注停止となっており、こちらも著しい進捗がない。
昨年末にアメリカで幅わずか0.5ミリの塩粒サイズの超小型カメラが開発された。約100ナノメートルの円柱160万本からなり、光波面を正しくとらえるために円柱の形状に幅を持たせたものである。なにより超小型であり、手術用鉗子の先端にも複数のカメラを配置できる可能性があり、本研究への応用を図る。またJINS MEME社のメガネ型ウエアラブルコンピュータの最新versionが再び市場に出る予定であり、本研究の遂行に必要なものを見極め外科医のストレスフィードバックに用いる予定である。また手技の別の評価として、オープンソースのニューラルネットワークであるYolo V3による内視鏡手術手技の定量化に成功しており、本研究の評価にもこの手技を応用する予定である。さらに、ロボット食道切除における患者骨格からみた難易度予測法を新規に確立・報告しており、有触覚鉗子がこういった患者個々の条件による問題の解決に有用かも検証する。
ロボット手術用有触覚鉗子に搭載する小型マイクロカメラの選定が終了し、相当数を購入・実装予定であったが、進捗の項で述べたように最適なカメラが決定できていないため計画を変更し、未使用額が生じた。また評価目的のツールであるJINS MEME社のメガネ型ウエアラブルコンピュータも販売・製造元の事情で購入に至っておらず、同じく未使用額が生じた。今後の研究の推進方策で述べたように今年度の進捗に応じ、次年度使用額を充当する予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Surgery
巻: 18 ページ: Online
10.1016/j.surg.2022.02.008.
Ann Surg Oncol
巻: 28 ページ: 7249-7257
10.1245/s10434-021-10123-w.