研究課題
肝細胞癌(HCC)は仮に根治切除を施行しても高率に残肝再発をきたす難治性疾患である。近年、各種消化器癌に対する免疫チェックポイント阻害剤(ICI)を用いたがん免疫療法が標準治療となりつつある。しかし、HCCの中でICIが奏効するのは免疫原性が高く細胞障害性T細胞(CTL)が多数浸潤している一部のいわゆるHot tumorのみでありHCCの約20%に過ぎない。したがって、HCCにおけるICIの抗腫瘍効果を高めるためには、免疫原性が低いことでCTLが浸潤しにくいCold tumorをいかにしてHot tumorに誘導するかが大きな課題である。本研究の目的は、根治切除可能肝細胞癌(HCC)に対する術前・術後補助免疫療法としてのHSP70由来ペプチド+GPC3由来ペプチドと新規免疫アジュバンドであるsLAG3-IgとPoly-ICLCを用いたがんワクチン療法を行った患者由来の切除腫瘍組織を用いて、それらに含まれるリンパ球の機能を解析することである。20症例に手術前に6回ワクチン投与後に根治切除を行った。切除標本はH&E染色およびHSP70、GPC3、CD8の免疫組織化学的解析を行った。また、腫瘍浸潤リンパ球を抽出し53種類の抗体を用いてマスサイトメトリー(CyTOF)により解析した。病理組織学的解析の結果、10名の患者において腫瘍内への高いCD8+T細胞の浸潤が認められ、これらの患者は免疫学的Hotと考えられた。ワクチンを投与することで、一部のCold HCCがHotへ変化している可能性が示唆された。切除標本より抽出した腫瘍浸潤リンパ球のマスサイトメトリー解析では、ワクチン投与群において、病理学的にHotと判断した症例はColdな症例と比較して、CD8+T細胞上のチェックポイント分子(PD-1、TIGIT)の高発現を認め、免疫チェックポイント阻害剤との併用療法が抗腫瘍効果を高める可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
20名の切除可能HCC患者に対して術前6回皮内投与後、根治切除術を施行した。ワクチン投与前生検組織および腫瘍切除検体を用いてCD8、PD-1、HSP70、GPC3に関する免疫組織化学的検討を行った。さらに、腫瘍切除検体に関しては、抽出した腫瘍浸潤リンパ球(TIL)をマスサイトメトリー(cytometry by time-offlight:CyTOF)を用いて解析した。
ワクチン療法等の前治療を施行せずに切除をおこなったHCC切除標本の腫瘍壊死、腫瘍抗原発現状況およびCD8+T細胞浸潤状況に関して免疫病理組織学的に検討を行う。マウス腫瘍モデルを用いたワクチン療法と抗PD-1抗体の併用療法の抗腫瘍効果の検討を行う。
年度末に購入予定であった試薬の納入が翌年度にずれ込んだため。
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Cancer Immunol Immunother
巻: 70 ページ: 945-957
10.1007/s00262-020-02737-y. Epub 2020 Oct 19.