研究実績の概要 |
大腸癌肝転移組織のFusobacterium nucleatum (F. nucleatum)を解析し、その作用を明らかにすることを目的とし、2001年1月から2018年1月に大腸癌肝転移に対して切除を施行した181例の大腸癌肝転移パラフィン包埋切片からDNAを抽出し、quantitative polymerase chain reaction法(qPCR法)でF. nucleatumの存在量を評価した。大腸癌肝転移組織切片中のCD8陽性T細胞、myeloid derived suppressor cell(MDSC, CD33陽性細胞)、tumor - associated macrophage (TAM, CD163陽性細胞)を免疫組織化学染色で評価した。 解析した181例のヒト大腸癌肝転移組織中、8例(4.4%)でF. nucleatumがqPCRにより検出された。F. nucleatumの有無と臨床因子との相関を解析した結果、年齢、性別、腫瘍局在(右側、左側)、腫瘍径、腫瘍個数、腫瘍マーカー(CEA, CA19-9)との間に相関は見られなかった。肝転移巣腫瘍境界部に浸潤しているCD8陽性T細胞数を検討したところ、浸潤細胞数が少ない症例では肝切除後無再発生生存率が有意に不良であった。また、大腸癌肝転移巣にF. nucleatumが検出された症例は腫瘍境界部に浸潤するCD8陽性T細胞数が有意に少なかった(P = 0.033)。さらにF. nucleatum陽性症例では、陰性症例と比べて肝転移巣に浸潤したMDSCが多いこと(P = 0.001)が明らかとなった。一方、F. nucleatumの有無と肝転移巣に浸潤するTAMには相関を認めなかった(P = 0.70)。以上の結果から、大腸癌肝転移組織に存在するF. nucleatumは腫瘍免疫抑制を介して、大腸癌肝転移の予後に影響を及ぼす可能性が示唆された。
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