研究実績の概要 |
肥満症は生命予後を著しく損なうことから健康上の大きな問題である.そのため,より効果的な治療薬の開発は急務である.我々は胃底腺に存在する伸展刺激に反応するTRPV4というカチオンチャネルに着目した.TRPV4はマウスの胃上皮に存在し,伸展刺激を受けてATPの遊離など様々な役割を果たしていることが示されている.ヒトに関しては胃上皮でも細胞株においてTRPV4が発現していることが示されているが組織標本を用いた検証は我々の知る限りは未だ行なわれていない.伸展刺激がTRPV4に作用し,食欲増進ホルモンであるGhrelinの分泌を調整し,食欲を制御するという仮説を立て,検証を行った.まず,62症例の胃切除検体のTRPV4に対する免疫染色を行い,発現量を肥満症例(BMI≧30)と非肥満症例(BMI<30)で比較を行った.穹窿部大彎を除くすべての部位で肥満症例において有意にTRPV4の発現量が多かった.そこでTRPV4がGhrelin分泌にどのような影響を与えるかを調べる目的で,マウス由来グレリン産生細胞株であるMGN3-1細胞を使用して細胞実験を行った.MGN3-1細胞に対するTRPV4作動薬の投与で細胞内Ca濃度が上昇しGhrelin分泌量が増加すること,作動薬と阻害薬の投与で細胞内Ca濃度が低下しGhrelin分泌量が低下することを確認した.また,MGN3-1細胞に120%の伸展刺激を与えると,Ghrelin分泌量が有意に増加した.TRPV4阻害薬を加えて伸展刺激を加えてもGhrelin分泌量は増加しなかった. 以上より,胃に存在するTRPV4は伸展刺激を受けてGhrelin分泌を調整し,体重に影響を与える可能性がある。TRPV4は食欲調整を目的とする薬剤の標的となる可能性がある.
|