研究課題
がんの再発・転移の制御は、がん疾患の克服において、非常に重要な課題の一つである。アルギナーゼ1(ARG1)は尿素サイクル関連酵素で、アルギニンを分解し、L-オルニチンや尿素の生成・代謝するとことで、様々な細胞の増殖、分化、機能を制御していることが知られている。しかしながら、これまでARG1が、がん細胞の悪性化に関係しているかどうかは明らかではなかった。そこで本研究では、大腸がんの肝転移巣形成におけるARG1とがんの悪性化との関連を明らかにし、がんの転移巣形成を制御する新たな標的としての有用性を検討した。ARG1を過剰発現するマウス大腸がんCT26細胞を作出し、野生型マウスの尾静脈内あるいは脾臓内に投与したところ、コントロール細胞に比べ、肺転移巣および肝転移巣の形成が有意に亢進した。大腸がん細胞の悪性化に対するARG1の作用効果をin vitro評価系で検討した結果、ARG1阻害剤の添加により、細胞増殖、生存、細胞遊走能が抑制されることを見出した。大腸がん肝転移巣形成マウスモデルに対してARG1阻害剤を投与したところ、肝転移巣の形成が著しく抑制されるとともに、MHCクラスIIを高発現する成熟型樹状細胞とパーフォリンおよびグランザイムBを発現する抗腫瘍エフェクターT細胞がより腫瘍組織内に浸潤することが分かった。最後に、ARG1阻害はHCT116ヒト大腸がん細胞においても細胞増殖、生存、細胞遊走能が抑制されることを確認した。本研究により、大腸がん細胞におけるARG1を介したアルギニン代謝の活性化は、担がん生体内での肝転移巣形成に関与するとともに、抗腫瘍免疫の抑制に寄与することが示唆された。従って、大腸がんの再発・転移において、アルギニン代謝に関与するARG1の阻害は、がん治療の有効な標的の一つになり得ることが考えられる。
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