本研究は代表者が同定した膵癌細胞表面の糖鎖に反応するrBC2レクチンと光感受性物質を融合させた新しい光免疫療法によるがん治療法の開発を目的とした。当初本研究はBC2レクチンに紫外線感受性物質であるビオチン標識した抗がん剤ドキソルビシンと紫外線感受性物質であるBC2Tamaを癒合させた新しい試薬BC2Tama-DOXPCBによる膵癌細胞に対する治療効果を評価することを計画した。本試薬は、BC2レクチンの標的糖鎖をもつ膵癌細胞株で特異的に取り込まれ、紫外線を照射することで高い殺細胞効果を発揮することが確認され、一方、標的糖鎖を持たない細胞株に対しては紫外線を照射してもこれらの殺細胞効果は確認されず、レクチンを用いた癌の光免疫療法の応用が可能であることが示された。DOXは膵癌細胞に対しては標準的な治療薬でない為、このままの臨床応用は難しいと判断したが、現在光免疫療法として臨床試験が開始されている赤外線感受性物質であるIR700を、我々は新しい免疫療法として用いることにした。BC2レクチンはIR700と共有結合が可能であり、BC2-IR700を新規に作成し、本試薬を用いてレクチンによる膵癌治療実験を当初の目的通りに計画した。膵癌培養細胞に対しては、標的糖鎖を有する細胞株に対して、試薬の添加+赤外線照射により高い殺細胞効果を確認できたのに対し、紫外線のみ、試薬の添加のみではこれらの殺細胞効果を発揮することは無かった。また、本試薬を膵癌皮下腫瘍マウスモデルに投与し、体内動態を蛍光観察すると、腫瘍、腎臓、肝臓に集積を有することが確認され、腫瘍のみに作用させるには腎臓や肝臓などのoff targetへの効果を如何に減弱させるかが課題であった。一方、腫瘍に対しては薬剤を投与し赤外線照射を行うことで高い抗腫瘍効果が確認された。現在off targetへの効果を減弱する手法を検討中である。
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