研究課題/領域番号 |
20K17643
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中川 暢彦 名古屋大学, 医学部附属病院, 医員 (90866500)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 膵癌 / リピドミクス |
研究実績の概要 |
全身疾患とも言える膵癌の治療成績向上には、集学的治療が不可欠である。また、膵癌は解剖学的に生検が困難であり、集学的治療の経過中には非侵襲的なリキッドバイオプシーによる病勢の把握が理想的である。 メタボロミクス(metabolomics)は生体内において酵素などの代謝活動によって作り出された代謝物質(メタボローム)を網羅的・包括的に捉える研究分野の一つであり、生命現象や病態解明において注目を浴びている。脂質メディエーターは、非常に多様な生理機能に関わるとともに、生体内の生理的および病的な炎症状態を動的に反映する指標となり得ることから、膵癌によって惹起される炎症の状況を鋭敏に捉え、治療効果や予後の評価などに既存の腫瘍マーカーとは異なる観点から鋭敏な指標として有用な可能性がある。本研究では集学的治療の各経過で採取されたマルチタイムポイント採血検体を用い、血液リピドミクス解析を用いた包括的アプローチで臨床的に有用なリピドームマーカーを見いだすことを目的としている。 まず名古屋大学医学部附属病院・消化器外科で膵癌の集学的治療を受けた患者4例と疾患のないhealthy control(HC)4例の治療前に採取された血液検体を用い、網羅的なリピドーム解析を行った。網羅的リピドミクスの結果、数種の脂質クラスについては膵癌群とHC群で有意に検出量が異なっていた。さらに血液中の脂質クラスのうち、コエンザイムQ10およびリゾリン脂質メディエーターについては疾患の病勢を反映している可能性もあり、今後の検証実験の候補となりうる物質と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
膵癌患者とhealthy controlから採取された治療前血液検体を用い、網羅的リピドミクス解析を予定通り実施することができた。臨床情報と併せた各クラスの検出状況の解析および有望な脂質クラスについては症例数を増やして検証的に特異的リピドミクス解析を行う予定であったがサンプル採取・調整等に遅延があり、現在のところ進捗がやや遅れている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
膵癌治療モニタリングに有用なリピドームマーカーパネルを作成するために、網羅的リピドミクス解析によって抽出されたリピドームクラスの中で膵癌治療前から治療中、治療後などの各時点における血液検体での検出を行い、再発および予後予測マーカーとしての臨床応用可能性を検討する。 特に重要と考えられるリピドームについて、膵癌細胞株の培養上清における定性・定量分析を行い、膵癌細胞株への抗癌剤投与によってその含有量が変化するかどうかなどの機能解析を検討する。 重要と考えられるリピドームに関する機知の酵素タンパク等について、遺伝子発現解析を膵癌細胞株を用いて行う。該当酵素の遺伝子について強制発現系や発現消失系を膵癌細胞株で作成し、細胞株で遺伝子発現の変化や増殖能・浸潤能の変化および、抗アポトーシス能の変化などを検討し、当該遺伝子の影響を調べるなど行う。得られた成果については学会や論文を通じて社会への発信を行う。
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