これまでに、健常者4例と膵癌患者4例の術前化学療法開始前の血清検体からアフィニティ法にてexosomeを抽出し、液体クロマトグラフィー質量分析装置(LC-MS)によりリピドーム解析を施行した結果、健常者と膵癌患者を比較して、脂質Aおよび 脂質B は、膵癌担癌症例で低値をとる傾向を認めた。 その後膵癌4症例でのマルチタイムポイント血液検体を用いた検討では、特に脂質Aが病勢をよく反映する結果であったため、マルチタイムポイント検体症例数を切除膵癌53例に増やして脂質Aの定量値推移を検討した。その結果、53例のうちの無再発症例19例と再発症例34症例について明確な差を認め、術後無再発生存率の検討でも術前脂質A高値群が有意に良好であることがわかった(P=0.015)。脂質Aは抗炎症性脂質メディエーターの一種であり、その抗炎症作用が制癌効果に相関すると推定されたため、53症例の血液検体における脂質A定量値を、同時期の腫瘍マーカーや各種栄養指標、炎症マーカーとの相関を調べたが、有意に相関する代替指標は認められなかった。 また脂質Aは、悪性黒色腫において腫瘍細胞の接着能を低下させることで血行性転移を抑制することが報告されており、膵癌においても腫瘍進行を抑制する可能性が示唆されたため、膵癌細胞株を用いたin vitro実験を施行した。その結果、複数の脂質A濃度の散布により、コントロール群において有意な細胞増殖抑制効果を認めた。また、膵管上皮正常細胞株で同様の実験を行ったが、脂質Aには特に細胞増殖抑制効果はなかった。今後適用する細胞株を増やして実験を繰り返すことでその妥当性を評価したうえで、成果についての論文発表を予定している。
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