研究課題/領域番号 |
20K17653
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
重安 邦俊 岡山大学, 大学病院, 助教 (70544071)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | RNA editing / 大腸癌 / 化学放射線療法 / ネオアンチゲン |
研究実績の概要 |
2021年度は、下記のごとく研究を遂行した。 【大腸癌臨床サンプルの免疫染色】 直腸癌の化学放射線療法施行例の免疫染色をさらに施行した。最近注目しているのはPANoptosisとADAR1の染色パターンである。核内のADAR1はRNA編集を行う一方で、細胞質のADAR1は細胞死を抑制することが最近明らかになってきたからである。つまり、細胞質のZBP1はADAR1と結合することで、アポトーシスを含めた細胞死(PANoptosis)を抑制するらしい。この観点から、我々はもう一度、直腸の放射線化学療法施行例でのADAR1の発現部位を確認してみた。すると、興味深いことに、化学放射線療法で誘導されるのは核のADAR1が優位で、細胞質のADAR1はほとんど上昇していないことがわかった。つまり、直腸における化学放射線療法は、核のみでADAR1を発現上昇させ、RNA編集を促進するものの、細胞質でのADAR1は誘導せず、細胞死を抑制しないことを明らかにできた。 【癌細胞株への化学放射線療法によるZBP1誘導の解析】 癌細胞株HT29を用い、化学放射線療法によるZBP1誘導作用を検証した。臨床サンプルの解析では、上記のごとく、化学放射線療法を行うと、ADAR1が核のみで上昇し、細胞質では上昇しないことがわかった。一方、細胞質のZBP1は細胞死を誘導すると言われている。大腸癌細胞株に化学放射線療法を行うと、ZBP1の発現が上昇することがわかった。以上のことを総合すると、大腸癌に化学放射線療法を行うと、核優位のADAR1の発現誘導でRNA編集を促進し、ネオアンチゲンが生成される。一方で、ADAR1は細胞質で上昇せず、ZBP1は発現上昇するから、細胞死は誘導されやすくなる、と思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、大腸癌切除標本の解析を行い、細胞株による検証を開始することを予定していた。これらを達成しつつ計画を進行できた。 2021年度は、ほぼ論文作成に必要な実験を完遂できている。次年度は、補足データを集積し論文投稿を目指す予定である。
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今後の研究の推進方策 |
【臨床サンプルの解析】 直腸癌の術前療法としては、CAPOX-RTのほかに、mFOLFOXIRI療法を行っている。この両者におけるRNA編集酵素ADAR1の誘導パターンの違いを明らかにする。プレリミナリーな解析では、CAPOX-RTではADAR1を誘導できるが、mFOLFOXIRIでは、ADAR1を上昇させることはできないという結果を得ている。今後、さらに症例を集積する。 【in vitro, in vivoでの解析】 ADAR1をノックダウンした細胞で化学放射線療法を行い、RNA編集の誘導能を確認する。理論上は、ADAR1をノックダウンするとRNA編集レベルが低下するはずだが、RNA編集は様々な調節因子が介在する現象であるから、実際にADAR1をノックダウンした環境下で確認する必要がある。できれば、ADAR1ノックアウト細胞株を樹立し、マウスを使った化学放射線療法の実験を行ってみたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次世代シークエンサーを用いたRNA編集の解析を行いたいのだが、今年度は予算が不足しているため、次年度に繰り越し、次年度の予算を合算して解析費用を捻出することにした。
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