研究実績の概要 |
まず大腸癌幹細胞の分離技術を確立するため、CD44,CD133での染色と、cell sorterを用いた分離を試みたが結果に再現性が得られず、異なる癌幹細胞マーカーを用いることとした。報告のある癌幹細胞マーカーALDH1を染色しcell sorterを用いてHT-29, T84からALDH1高発現細胞集団を分離することに成功、さらに継代培養することに成功し、これを用いて検討を進めることとした。 HT29由来の癌幹細胞におけるイオン輸送体の発現を評価するため、網羅的遺伝子解析を行うと、カルシウムイオン輸送体としてはCACNA2D4,CACNA1I, CACNA1Aが3.23から1.88倍、起源の細胞株より高発現していた。これは、実験仮説である癌幹細胞に対するregulatory volume decrease(RVD)が、Caイオン輸送体の制御により抑制できる可能性があることを示唆する結果であった。 さらに癌幹細胞に対する低浸透圧刺激に対する容積変化を評価するため、細胞容積が測定可能である、Multisizerを用いて、低浸透圧刺激時の変化を評価した。通常の癌細胞株ではRVDが観察される一方で、癌幹細胞ではRVDは生じないが低浸透圧刺激による細胞容積増大が抑制されていた。この結果は、低浸透圧刺激を加えた際の細胞破壊に対して癌幹細胞が耐性を有する可能性を示す結果であり、これを裏付けるため低浸透圧刺激後一定期間細胞培養を行い、生存細胞数を評価する実験を追加したところ、通常癌細胞に比較して癌幹細胞の方で生存する細胞の割合が高いことが示された。 癌幹細胞が低浸透圧刺激による破壊に対して耐性を有し、この性質とカルシウムイオン輸送体の高発現が関連している可能性があるため、今後はこの点について阻害剤や、siRNAのトランスフェクションなどを追加することで引き続き検証していく予定である。
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