研究課題
浸潤性膵管癌(以下膵癌)は他の癌と比較して悪性度が高く、極端に予後不良な「21世紀に残された消化器癌」と言われ、その対策は急務である。膵癌細胞の分子的背景は不明な点が多く、その特性を解析して非侵襲的早期診断や治療効果の向上に繋げる技術開発が求められている。そこで本研究では、膵癌患者の手術検体組織に加えて、手術前後に末梢血検体を採取し、日本発の技術である包括的高感度転写産物プロファイリング(High Coverage Expression Profiling: HiCEP)法を活用し、かつ次世代シークエンサーを組み合わせた新規の高感度解析法により、高悪性度である膵癌に特異的な分子を探索することを目的とする。HiCEP法では、高感度かつ網羅的、定量的な発現解析を行うことが可能であり、実験の再現性も非常に高いという特徴がある。しかし、得られたピークの解析には、再度の電気泳動によるピークの個別分取と精製、シークエンシングが必要であり、これまでは転写物の配列決定に時間と手間を要した。そこで本研究において、ヒトにおいて初めてとなるHiCEP法の新たな解析手段を行った。すなわち、通常のHiCEP解析に加え、HiCEP法の途中で作成される全cDNAフラグメント(256対のプライマーを用いて網羅的に増幅されたcDNAの集合体)を対象に次世代シークエンサーで配列及びサイズを決定し、これによりHiCEPフラグメントのカタログ化を行った。カタログ化された情報を既に全配列が決定されているヒトゲノムにおいてアノテーションすることにより、ピークに該当する転写物の同定を、効率的に、かつ高い確率で行うことができるようになった。この新規の高感度解析法により、癌部での発現が非癌部での発現と比較して増加している共通のピーク(転写物)、及び減少している共通のピーク等の発現解析を進めることが可能になった。
2: おおむね順調に進展している
膵癌の腫瘍組織を用いてNGS-HiCEP法を実施し、癌部と非癌部の発現を比較することで腫瘍特異的なマーカー候補を26個同定することができ、そのうち12個は新規であった。これらの候補については、28例でreal-time qPCRを用いた再現解析を行い、高い再現性を確認した(学会発表予定)。以上の成果より、NGS-HiCEP法は新規腫瘍マーカー候補を効率よく網羅的に検出できることが示唆され、今後これらの詳細な検討を行い、論文として報告する予定である。サンプル採取に関しても対象施設から膵癌組織検体、採血検体の採取を継続することができており、解析を進展させる予定である。このように臨床症例を用いた解析及びその再現解析は順調に進んでおり遺伝子発現データベースが得られている。今後、これらの結果と病期診断や病理診断、治療効果等の臨床データとの関連を解析・検討することにより、膵癌の非侵襲的早期診断や再発の早期検知を目指す。
【現在までの進捗状況】に記載の通り、膵癌組織検体をNGS-HiCEP法により解析することにより膵癌における遺伝子発現データベースと新規腫瘍マーカー候補を得ることができた。今年度はこの結果を用いて、病期診断や病理診断、治療効果等の臨床データとの関連を解析・検討することにより、膵癌の非侵襲的早期診断や再発の早期検知が可能となるようなマーカーを探索する。また同様の解析を腎癌においてもすすめており、NGS-HiCEP法は、異なる癌腫においても新規腫瘍マーカー候補を効率よく網羅的に検出できることが示唆された。合わせて、これらの知見をゲノムコホート研究と共有することにより、治療効果の予測や二次予防に向けた臨床応用に繋がる技術開発の基盤となる成果に結びつけることを目標とする。これらの研究の結果、得られた研究成果を取りまとめ学会や論文での発表を行う。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う混乱により、年度末前後の研究計画を一部変更する必要あり次年度使用額が生じた。前倒しで進捗している研究もあるため、全体として本課題の研究推進には問題はない状況である。
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