研究課題
近年、癌間質が癌の進展を促進することが広く研究されている。癌間質は線維芽細胞、血管内皮細胞や血球・免疫細胞などの骨髄由来の炎症・免疫関連細胞、細胞外基質などで構成されるが、なかでも癌間質における線維芽細胞は癌関連繊維芽細胞:Cancer-associated fibroblast (CAF)と呼ばれ注目されている。癌間質は癌細胞の生存や増殖を育む微小環境として認識され、個々の癌の臨床的な特徴を規定しうる重要な因子であると報告されている。一方で、食道癌に対する治療戦略の研究は広くおこなわれているが、日本において5年生存率は約40%、特にステージ3以上においては30%を下回る。食道癌の癌間質に注目した微小環境バイオマーカーや癌細胞と間質との相互作用についての報告は少ないのが現状である。本研究では食道癌の発癌、浸潤、転移における癌間質の役割とCAFに由来するVCAN、POSTN、LUMの臨床的意義に迫り、微小環境バイオマーカーとしての価値を追求し個別化医療への道を開くことが本研究の目的である。2020年度から2021年度にかけて、303症例の食道癌手術症例を拾い上げ、臨床情報収集と組織検体の収集を行った。解析対象は術前治療なし症例を主とし、106症例に対し、免疫組織化学的アプローチを行い、VCAN、POSTN、LUMの評価を行った。免疫染色の方法の検討を行い、適切な抗体、条件等を決定した。各症例、各CAF関連分子に対し、癌細胞、癌間質でのscoringを行い、質的評価を行い、免疫組織化学的評価と臨床情報との統合解析を施行した。食道癌間質におけるVCAN、LUMの高発現は無再発生存期間、全生存期間と逆相関する結果を得ており、同結果は国際雑誌oncology lettersにおいて発表した。また複数の国内学会において報告し、特に癌治療学会においては優秀演題賞を受賞した。
3: やや遅れている
病理学的評価と臨床データとの統合解析にて良好な結果を得たため発表に資する段階まで進むことができたが、手術前治療歴のある症例に対しての病理学的評価がやや難航している。
2020年度~2021年度にかけ食道癌手術症例303症例のうち、手術前治療のない症例106症例を第一の解析対象とし、臨床情報と免疫組織化学的評価との統合解析を行った。次年度は得られた結果から、計画当初にたてた仮説を再考察し、改めて設定する。それに基づき機能解析等を目的としたin vitroの実験系を確立する。また、術前治療ありの症例197症例に対して、治療反応性とCAF関連分子の発現との関連性も評価を継続し、更にVCAN、POSTN、LUMの臨床的意義について症例(腺癌やbasaloid SCC症例、内視鏡的切除症例など)を拡大し、統計学的検討を深め、バイオマーカーとしての確立を目指す。
すでに当講座で準備してある機器、試薬や消耗品等を使用したため。次年度、発生した経費について計上する予定である。
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Oncology Letters
巻: 21 ページ: ページ記載なし
10.3892/ol.2021.12706