多くの悪性腫瘍では正常細胞に比して、その増殖に必須アミノ酸であるメチオニンを要することが知られており、このメチオニン依存性は"ホフマン効果"と呼ばれている。 膵癌細胞においても他の悪性腫瘍同様、メチオニン依存性を有することが知られているが、抗腫瘍効果を示すその詳細な機序は未だ明らかではない。3種類の膵癌細胞株を用いてメチオニンフリーの培養液と通常培養液の2群でその増殖を比較したところ、メチオニンフリーの培養液で培養した細胞株は通常の培養液に比してその増殖能が有意に低下することが示された。その詳細なメカニズムを解明するために、プロテオーム解析・IPA解析を用いて2群間の蛋白発現の差を検証したところ、メチオニン制限は膵癌細胞株において、JAK2/STAT3経路を抑制していることが示唆された。さらに、JAK2/STAT3 pathwayに関与するNF-kBに関して、同様に3種の膵癌細胞株でメチオニン制限によりその発現量が減少していることが確認できた。また、膵癌皮下腫瘍モデルにおいてもメチオニン制限は単独でも抗腫瘍効果を示した。また、切除検体を用いた免疫組織学的染色ではSTAT3発現がメチオニン制限によって減少していた。 以上から、メチオニン制限はJAK2/STAT3 pathwayを抑制することで膵癌細胞株の増殖抑制を示している可能性が示唆された。今後さらなる細胞株や臨床検体を用いた検証が必要である。本年度論文投稿予定である。
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