研究課題
潰瘍性大腸炎とクローン病を含む炎症性腸疾患においては重症化に対する積極的治療に加えていかに粘膜修復を促進させるに対応するかが重要である。これまで、炎症性腸疾患の寛解には腸リンパ管新生が関与する可能性を調べたてきた。マウスに2%DSS(デキストラン硫酸ナトリウム)を5日間自由に飲水させ炎症性腸疾患を誘導し、その後の9日間は飲水自由とさせて炎症が収束状態となったときに、新生するリンパ管が形成されていることを見いだした。プロスタグランジンはリンパ管新生増強作用があることを我々は報告しており、DSS腸炎におけるプロスタグランジンの関与を調べた。すでにプロスタグランジン受容体サブタイプのなかでEP4受容体が関与することを明らかにしているため、EP4受容体シグナルがリンパ管新生に関与するかどうかを、遺伝子改変動物(EP4受容体欠損マウス)を用いた。しかしながら、EP4受容体欠損マウスに2%DSSを投与すると粘膜障害が強く、回復にいたるマウスが少なかった。そこで、遺伝子改変動物による検討は中止とした。その代わりに炎症回復期におけるリンパ管新生の意義とEP4受容体シグナルの関与を調べる目的で、DSS投与終了日(5日目)に選択的EP4受容体拮抗薬を連日投与した。14日目では自由水と比較して炎症は増悪(体重減少、下痢・下血の持続、サイトカイン増加、炎症性細胞集積)した。リンパ管密度(リンパ管数/面積)は増加したが占有リンパ面積は減少し、小径リンパ管が増加した。さらにEP4拮抗薬同様に選択的EP4受容体作動薬を5日目から連日投与すると組織修復の促進(体重回復、下痢消失、潰瘍の消褪、炎症サイトカインや炎症性細胞の減少)がみられた。またリンパ管密度には差はないがリンパ管占有面積が上昇して、結果として拡張リンパ管が増加した。
2: おおむね順調に進展している
本研究が、当初に立案した実験計画に沿って、ほぼ順調に遂行されている。潰瘍性大腸炎実験モデルにおいて粘膜組織下に形成される新生リンパ管は粘膜修復に寄与する可能性をみいだすことができたからである。
当初の実験計画に沿って、本研究を進めていきたい。とくにプラスタグランジンがリンパ管新生にどのように関与するのかを明らかにしていく。
ノックアウトマウスの繁殖が想定通りにいかなかったこと、また購入予定であった消耗品の納入が間に合わなかったこと、学会がオンライン開催となったことから旅費を使用しなかったことなどのために次年度に繰り越した。
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In Vivo
巻: 35 ページ: 2577-2587
10.21873/invivo.12540.