研究課題
炎症性腸疾患の患者数は毎年増加している。その治療は炎症主体から免疫調節主体へと変わり、選択肢も大幅に増えてきた。しかし、粘膜修復とその制御機構に関する研究は十分ではない。炎症収束や組織修復にはリンパ管新生が関与することが分かってきた。炎症性腸疾患でもリンパ管新生がみられ実験的な検討がすすめられている。そこで、本研究では炎症後の組織修復(粘膜修復)におけるリンパ管新生の役割とその制御機構を解明することを目的とした。雄性C57BL/6マウスを用いて2%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を経口投与して実験的に潰瘍性大腸炎モデルを作成した。DSSを5日間投与後に自由飲水をその後9日間投与し14日目に検体を採取すると、組織修復ならびにリンパ管新生がみられることを病理組織学的に確認した。そこで、DSS誘導急性腸炎後の粘膜修復期にリンパ管新生が関与するかどうかを調べるために、リンパ管新生刺激因子VEGF-C,VEGF-Dの受容体VEGFR3キナーゼ阻害薬を投与したところ急性腸炎は増悪し、粘膜修復は遅延した.このとき,粘膜修復遅延とともに粘膜下組織リンパ管新生も抑制された。そこで、プロスタグランジンE2受容体サブタイプであるEP4の選択的刺激薬(アゴニスト)と遮断薬(アンタゴニスト)を投与した。その結果、EP4受容体アゴニスト投与によりDSS誘導腸炎からの修復が促進され、拡張リンパ管が増殖し、ドレナージ機能が亢進した。一方、EP4受容体アンタゴニスト投与ではDSS誘導腸炎の炎症が持続し、細かいリンパ管が形成された。またリンパ管新生にはEP4シグナルを発現する修復性マクロファージがリンパ管新生刺激因子VEGF-C,VEGF-Dを産生している可能性が示された。本研究により、EP4受容体シグナルを特異的に刺激することでリンパ管新生を増強することで潰瘍性大腸炎修復が促進する可能性が示唆された。
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