ヒトiPS細胞由来心筋組織移植による治療効果を向上させる為には、移植心筋組織の生着改善が必要である。また、移植した心筋組織が、ホストの心臓と同期することで直接的に収縮能サポートする可能性がある。本研究では心筋細胞に加え細胞外マトリックスの重要な構成要素の1つであるラミニンを付加し、高機能化した心不全心に移植することで生着の向上と、パラクライン効果に加え直接収縮をサポートするdirect effectの可能性を評価した。ラミニン付加はヒトiPS細胞由来心筋細胞への影響評価では、運動機能は収縮・拡張速度が増強、代謝機能はミトコンドリアにおける最大呼吸速度が増強した。また、MYL2、TNNT3、MYH7といった心筋細胞の構造関連遺伝子の発現の増強を認めた。心筋組織移植直後は低酸素条件下にさらされるため、低酸素条件下における移植心筋組織の生存細胞数、細胞傷害性を評価したところ、それぞれラミン付加によって向上を認めた。また低酸素条件下においてラミニン付加によって、ヒトiPS細胞由来心筋細胞のpFAKの活性化、下流に位置するSTAT3の活性化、そして抗アポトーシス関連遺伝子であるBCL2、BCL2L1の有意な発現増強を認めた。次にフィブリンを用いてヒトiPS由来心筋細胞(hiPS-CM)にラミニンを付加する3次元心筋組織を開発した。組織における至適細胞濃度は運動機能で評価した。虚血性心筋症モデルラットを用いた、ラミニン付加心筋組織移植では組織移植部分周囲のホストの心臓における傍梗塞部位において、VEGF、PDGF、FGF、SDF-1のサイトカイン発現の増強を認め、虚血に伴う線維化の抑制を認めた。加えてdirect effectの可能性を評価するため、gCaMP3組込み移植心筋組織とホスト心臓における、電気的同期の評価では、移植後3週目にホストの心臓と同期する移植心筋組織を認めている。
|