終末糖化産物(AGEs)は糖化蛋白で、加齢や糖尿病によって促進的に形成される。これまでの多くの研究によって、AGEsはその受容体RAGEに結合することによって酸化ストレスと炎症を惹起し、動脈硬化性疾患の発症と進展に関わることが明らかにされつつある。現在、進行した動脈硬化性病変の治療として血管形成術が広く行われているが、糖尿病患者では術後再狭窄のリスクが高いという問題がある。我々は、AGEsもしくはRAGEに特異的に結合し、AGEsによる酸化ストレス・炎症を制御することのできるDNAアプタマーの開発に成功した。 令和3年度までの実験では、肥満糖尿病モデルのKK-AYマウスを用い、薬液除法作用のある浸透圧ポンプを用いてコントロールアプタマー、AGEs中和DNAアプタマーもしくはRAGE阻害DNAアプタマーを持続皮下投与した。アプタマー投与から2週間後に、大腿動脈にガイドワイヤーを挿入し、内腔から動脈内膜・中膜を傷害して再狭窄を惹起した。AGEs中和DNAアプタマーもしくはRAGE阻害DNAアプタマーを投与された糖尿病マウスでは、コントロールアプタマーを投与された糖尿病マウスと比較して、再狭窄の原因となる新生内膜過形成が抑制された。一方で、中膜の菲薄化や動脈径の拡大(外方へのリモデリング)などの変化は見られなかった。 令和4年度には、AGEs中和DNAアプタマーが新生内膜過形成を抑制した機序を解明するための実験を行った。ワイヤー傷害を行った動脈の組織切片を用いて蛍光免疫染色を行った。KK-AYマウスの動脈周囲脂肪組織にAGEsが蓄積しており、酸化ストレスマーカー8-OHdGの増加と増殖因子PDGF-DD陽性細胞の増加が認められた。今後は、DNAアプタマーによるAGEs-RAGE系の阻害がどのような分子機序を介して新生内膜の過形成を抑制したのかについてさらに検討を進めていく予定である。
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