研究課題/領域番号 |
20K17732
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
中尾 英智 久留米大学, 医学部, 助教 (80869545)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 大動脈解離 / IgG / フィブリノーゲン / 内皮細胞 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は大動脈解離病態における液性免疫系の意義を明らかにすることである。 正常大動脈組織ではフィブリノゲンやIgGは検出ず、解離刺激後には発症前の一見正常に見える大動脈組織では解離好発部位に一致してフィブリノゲンと内因性IgGの局所沈着を認めた。この事実は、血管内皮のバリア機能が低下していることを示唆する。この点を検討するために、大動脈解離モデルに様々な分子介入を加え、解離フェノタイプおよび内皮関連遺伝子群の発現を検討した。 今回実施した分子介入であるIL-17ノックアウト、MRTF-Aノックアウト、平滑筋特異的Socs3ノックアウトおよびmTOR阻害薬ラパマイシンの投与では、いずれも解離を抑制した。内皮関連遺伝子群の動態について、解離刺激では血管新生因子、インテグリンシグナル関連因子、内皮細胞リモデリング因子の発現が亢進し、正常血管維持因子であるアンジオポエチンの発現が低下していた。これらの遺伝子発現変化は、内皮細胞のバリア機能が低下するとの作業仮説と整合的と考えられた。これらの変化は、解離促進因子(MRTF-A、IL-17)のノックアウトで消失した。また、解離発症が抑制されるIL-17ノックアウトでは内皮接着因子PECAM-1および正常内皮構造形成因子PLVAPの発現が亢進しており、内皮バリア機能が維持されることが示唆された。大動脈保護作用を示すラパマイシンはPECAM1、LYVE1、Podoplaninの発現を亢進させており、やはり内皮細胞の接着を促進することが示唆された。 解離病態では血管新生応答が起こるとともに内皮のバリア機能低下が示唆された。一方、血管保護作用を示す分子介入の一部(IL-17 KO、smSocs3 KO、ラパマイシン)は、内皮の接着およびバリア機能維持に働くと考えられた。以上より、内皮のバリア機能制御は解離病態で重要な意義があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
そもそもフィブリノゲンやIgGが大動脈組織にどのように侵入するかという疑問について大動脈内膜のバリア機能低下に着目し、内皮細胞関連因子の遺伝子発現変化を観察できた。また、バリア機能の変調を含む内皮機能のリモデリングを左右する因子を同定できた。
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今後の研究の推進方策 |
内皮細胞関連因子の遺伝子発現変化からは、内皮のバリア機能制御は解離病態で重要な意義があることが示唆された。申請者は解離病態における内皮バリア機能破綻の意義を明らかにするため、マウス解離モデルにおいて内皮バリア機能の評価と内皮バリア機能維持による効果を観察する。また、バリア機能の変調の結果起こるフィブリノーゲン(フィブリン)およびIgGの組織沈着が組織破壊において果たす役割の解明を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は新型コロナウイルス感染症の影響により、予定実験の遅れや国内及び海外学会への渡航参加が困難であったこと等により、次年度使用額が生じた。 次年度使用額は「解離病態における内皮バリア機能破綻の意義の解明」に際して、薬剤購入や遺伝子解析等に充てる予定としている。
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