本研究の目的は大動脈解離病態における液性免疫系の意義を明らかにすることである。正常大動脈組織ではフィブリノゲンやIgGは検出せず、解離刺激後には発症前の一見正常に見える大動脈組織で解離好発部位に一致してフィブリノゲンとIgGの局所沈着を認めた。この事実から血管内皮のバリア機能が低下していることが示唆され、マウス解離モデルに様々な分子介入を加え、解離フェノタイプおよび内皮関連遺伝子群の発現を検討した。 分子介入として、IL-17ノックアウト(IL-17 KO)、MRTF-Aノックアウト(MRTF-A KO)、平滑筋特異的Socs3ノックアウト(smSocs3 KO)およびmTOR阻害薬ラパマイシンの投与を行い、いずれも解離を抑制した。内皮関連遺伝子群の動態に関しては、解離刺激にて血管新生因子、インテグリンシグナル関連因子、内皮細胞リモデリング因子の発現が亢進し、正常血管維持因子であるアンジオポエチンの発現が低下していた。また、これらの変化は、解離促進因子(MRTF-A、IL-17)のノックアウトで消失した。解離病態では血管新生応答が起こるとともに内皮のバリア機能低下が示唆され、血管保護作用を示す分子介入の一部(IL-17 KO、smSocs3 KO、ラパマイシン)は、内皮の接着およびバリア機能維持に働くと考えられた。 内皮機能低下の原因に細胞老化の関与が報告されており、また老化細胞による炎症の惹起関連も示されている。申請者は大動脈解離病態に、老化細胞による内皮機能低下と炎症惹起が関与している可能性に着目した。組織染色では、解離刺激により、解離発症前から解離発症後も通して内膜に老化細胞を認めた。さらに、老化細胞除去薬が解離の増悪・突然死を抑制することを発見した。この結果から、大動脈解離には老化した内皮細胞が関係しており、解離増悪に老化細胞が重要な役割を担うことが示唆された。
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