研究課題/領域番号 |
20K17733
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
眞島 涼平 久留米大学, 医学部, 助教 (60811073)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 制御性T細胞 / Syk / FAK |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、T細胞の機能に着目して大動脈の病態を解明することである。我々は浸透圧ポンプを用いたβ-アミノプロピオニトリル、コラーゲン架橋阻害剤、およびアンジオテンシンII(BAPN+AngII)の持続注入により大動脈解離のマウスモデルを作成した。そして接着斑キナーゼ (Focal adhesion kinase: FAK)が大動脈解離に中心的な役割を持つことを明らかにした。FAK阻害薬を投与した解離モデルマウスのトランスクリプトーム解析によりFAK阻害薬がT細胞、B細胞の分化・活性化を抑制することを突き止めた。また我々は、免疫抑制分子Sykの阻害薬 (R788)をマウスに投与することで、解離を増悪させ突然死を引き起こすことを明らかにした。近年の研究では、転写因子のFoxp3が制御性T細胞 (Treg)の発生や機能制御に重要な調節性遺伝子であることが明らかになっていることから、T細胞が免疫系の制御を介して解離病態を制御するとの仮説を立てた。 初めに、Syk阻害薬を投与した解離モデルマウスの大動脈組織に対してトランスクリプトーム解析を行った。その結果、Tregのマスター転写因子であるFoxp3が有意に抑制されていた。次に、解離モデルの解離刺激後かつ発症前においてBAPN+AngII投与群(BA+)、非投与群(BA-)及びR788投与群(R788+)、非投与群(R788-)の4群に対してRT-PCRを行なった。その結果、BA+R788+群のFoxp3はBA-R788-群と比較して有意に低下していた。この結果は解離刺激条件下において、Foxp3が解離に抑制的に働く可能性を示唆している。引き続きT細胞の機能に着目した研究を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トランスクリプトーム解析により、T細胞の一種である制御性T細胞が大動脈解離を抑制する可能性が示された。そのメカニズムは明らかになっていないが、SykはTregに対して直接的、あるいは平滑筋細胞やマクロファージなどの働きを介して間接的に作用すると考えられる。 T細胞活性化・分化に必要なCD3εを欠損させたマウスや免疫抑制薬シクロスポリンを用いてT細胞機能に着目した解離病態の解明を目指す。 以上より解離病態におけるT細胞の機能解明は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
T細胞機能に着目した解離病態の解明を目指すため、T細胞活性化・分化に必要なCD3εを欠損させたマウスを用いて解離モデルを作成し、解離の形態・組織・分子フェノタイプ、免疫細 胞の活性化状態について野生型マウス と比較する。マウス解離モデルを作成し、T細胞活性を阻害する免疫抑制薬シクロスポリンを腹腔内注射開始する。シクロスポリン感受性のT細胞機能が解離の発症および進行に重要かどうかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の国際学会の発表のために旅費を確保していたが、国際学会が新型コロナウイルス流行のためにオンライン開催となったことで旅費の分が次年度使用額として生じた。予算の一部を今年度の試薬類に充て研究の加速を図った。次年度使用額はノックアウトマウスや試薬の購入に充てる予定である。
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