研究課題
本研究の目的は、T細胞の機能に着目して大動脈の病態を解明することである。我々は浸透圧ポンプを用いたβ-アミノプロピオニトリル(コラーゲン架橋阻害薬)、およびアンジオテンシンII(BAPN+AngII)の持続注入により大動脈解離のマウスモデルを作成した。そして接着斑キナーゼ(Focal adhesion kinase: FAK)が大動脈解離に中心的な役割を持つことを明らかにした。FAK阻害薬を投与した解離モデルマウスのトランスクリプトーム解析によりFAK阻害薬がT細胞、B細胞の分化・活性化を抑制することを突き止めた。我々の研究で同定された解離関連遺伝子の制御ネットワーク分析より大動脈解離と脂肪酸代謝が関連していることが示唆された。近年の研究では、T細胞は分化に伴い代謝プログラムが変化し、制御性T細胞では脂肪酸酸化経路が亢進することが報告されていることから、T細胞が免疫系の制御を介して解離病態を制御するとの仮説を立てた。解離モデルの解離刺激後かつ発症前において傍大動脈脂肪組織に対するトランスクリプトーム解析を施行した。その結果、解離発症前にIL-6の増加、Th2サイトカインの増加、Th1サイトカインの減少、マクロファージ走化因子の増加、T細胞走化因子の減少、マクロファージマーカーの増加、T細胞マーカーの減少、脂肪代謝関連遺伝子の減少を認めた。解離発症前に傍大動脈脂肪組織では顕著な免疫応答の変動が起こっていた。これらの変動は全体的には大動脈組織で見られる変動と類似していたが、T細胞では相反する結果も見られた。同時に脂肪組織では本来の機能である脂肪代謝の機能が低下していた。解離病態において大動脈組織と傍大動脈脂肪組織は空間的に近接しており、1つの免疫応答システムとして働いていることが示唆された。今後は、免疫応答や脂質代謝の観点からこれらの組織の相互作用を検討する予定である。
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J Cardiol
巻: 77 ページ: 471-474
10.1016/j.jjcc.2020.10.010