研究実績の概要 |
心臓血管外科術後の大量出血は比較的高頻度に生じるが、手術成績の悪化や医療費の負担増をもたらす。背景に人工心肺後凝固障害など複数の要因が関連した病態があり、最終的な対策は輸血療法に依存せざるを得ない。心臓血管外科手術における輸血製剤使用量は極めて多く、これを低減させることは社会的にも求められるが、血液代替物の実用化は解決策となる可能性がある。研究協力者らが開発しているH12-(ADP)-リポソームは、完全合成による血小板代替物である。平成30年度若手研究「血小板代替物による人工心肺後凝固障害の制御(18K16407)」において、ウサギ人工心肺モデルにおいてもH12-(ADP)-リポソームの投与が血小板凝集を促進し止血能を向上させることを示した。これを受け、実臨床においてH12-(ADP)-リポソームの投与が心臓血管外科術後出血を抑制し輸血必要量を低減させる可能性があると考えた。心臓血管外科術後出血制御を目的としたH12-(ADP)-リポソーム投与の臨床応用にむけた具体的な検討を行うことが本研究の目的である。本研究ではH12-(ADP)-リポソーム臨床治験の実現に向けた事前検討として、人工心肺を用いた心臓血管外科手術患者を対象に周術期の血液検体を用いて、生体外でH12-ADP-リポソームが凝固障害に与える影響の検討を行った。その結果H12-(ADP)-リポソームは過剰な血小板活性化や過凝固状態などは引き起こさず、一定の安全性を示すことができた。本研究は来る世界初の人工血小板製剤の臨床応用に有益な結果をもたらし、本内容は“In vitro study on the effect of fibrinogen γ-chain peptide-coated ADP-encapsulated liposomes on postcardiopulmonary bypass coagulopathy using patient blood”としてJournal of thrombosis and haemostasis (2023, available online 28 March 2023, in press)に報告した。
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