研究実績の概要 |
間質性肺炎の経過中に発症する肺癌の発癌メカニズムには、間質性肺炎の病態が深く関与していると考えられている。Arl4cは、上皮細胞ではWnt/β-カテニンシグナルとEGF/Ras シグナルが同時協調的に活性化しこれまでに、肺癌・大腸癌・肝癌・舌癌・胃癌・卵巣癌など様々な癌腫で癌細胞の増殖能や遊走能に関わることが報告されており、われわれは肺癌患者の切除肺病理サンプルを用いた免疫染色で肺腺癌の前癌病変に高率(約80%)にArl4cが発現することを確認しており、Arl4cが肺癌の発癌過程に深く関与していることを示した。本研究では、間質性肺炎において、病的に活性化した線維芽細胞で発現するArl4cが肺の線維化や間質性肺炎合併肺癌の発癌過程に与える影響を明らかにすることを目的としている。本年度の実験としては、まず、間質性肺炎患者由来線維芽細胞におけるArl4c発現の確認と既存の線維化活性マーカーの相関を比較し、さらにArl4c遺伝子をノックダウンすることで生じるfibroblastにおける増殖能などの表現型の違いを評価した。間質性肺炎合併肺癌切除症例のから単離した活性化線維芽細胞は非合併肺癌切除症例のそれと比較してArl4cの発現は有意に上昇していた。さらに、CTGF,COL1A1,COL1A2,POSTN,FAP,ACTA2などの線維化活性と関わる遺伝子発現の上昇も認めていた。次に、Arl4cをノックダウンし増殖能を確認したところ、Arl4cの発現が低下した線維芽細胞では、発現低下していない線維芽細胞と比較して、増殖能が有意に低下した。以上より、Arl4cは間質性肺炎患者由来の線維芽細胞で強い発現し、増殖に関わる可能性がある。
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