研究課題/領域番号 |
20K17750
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
清水 勇輝 山口大学, 大学院医学系研究科, 助教 (20789482)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 肺胞上皮細胞 / 伸展刺激 / 肺胞隔壁増生 |
研究実績の概要 |
代償性肺再生は肺切除後の残存肺に起こるとされているが、ヒト成人ではきわめて限定的にしか起こらないと考えられており、そのメカニズムは未だに分かっていない。しかし、実験動物やヒト小児において、肺切除後の残存肺の代償性再生が起こることが示されている。これらのメカニズムの解明が、ヒト成人の肺再生への応用につながるのではないかと考えられる。マウスを用いた以前の我々の研究により、代償性肺再生が起こる際には肺胞道が拡張し肺胞隔壁が形成されることが示されている。そこで本研究では、肺胞道拡張により肺胞上皮細胞に加わる物理的過伸展刺激に着目し、マウス肺胞上皮細胞(MLE12)を用いた肺胞再生機構の解明を試みた。 2020年度には、MLE12を用いてスフェロイドを作成し、シリコンチャンバーに播種することで、2次元方向への形態学的変化をより詳細に検討可能な実験系を確立した。MLE12をシリコンチャンバーにて24時間培養後、培養細胞伸展システム(STREX)を用いて12時間伸展刺激(伸展率20%、伸展回数15回/分)を与えた。刺激終了12時間後、MLE12におけるKi-67の発現を検索し、伸展刺激によるMLE12の動態変化を解析した。伸展の有無にかかわらずKi67の発現はともに亢進した一方で、伸展なしと比較し、伸展ありでは2次元(培養面)方向への遊走が著しく抑制されるという興味深い知見が得られた。 以上より、伸展刺激により増殖能が亢進した肺胞上皮細胞が、3次元方向へ遊走し新たな肺胞隔壁を形成する可能性が示唆された。現在、Podoplanin(Ⅰ型肺胞上皮細胞マーカー)、SP-C(Ⅱ型肺胞上皮細胞マーカー)、Sca-1(幹細胞マーカー)を標的に、伸展刺激によるMLE12の性状変化の詳細を探索中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度では、MLE12に伸展刺激を与える実験系を確立し、伸展刺激がMLE12の性状を変化させ、肺胞隔壁増生のトリガーとなる可能性が示唆される結果を導き出した。伸展刺激により増殖能が亢進した状態でMLE12の2次元方向への遊走が抑制されたことより、MLE12が3次元方向へ増殖・遊走しようとしているという仮説を立てることができる。今後は、Podoplanin、SP-C、Sca-1を標的にし、伸展刺激によってMLE12にどのような性状の変化が起こるかを検討し、伸展刺激と肺胞隔壁増生との関連性を詳細に検討することで、上記の仮説を立証することが必要となる。 以上より、成体肺に潜在する再生能の再活性化に基づく肺再生療法の確立に向けた研究の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
MLE12が3次元方向へ増殖・遊走しようとしているという仮説を立証するため、これまでに得られた成果をさらに発展させる。今後は以下の検討を追加する予定である。 ①スフェロイドを用いることで、伸展刺激によるMLE12の2次元方向への遊走の抑制を定量化する。 ②伸展刺激による各種マーカー(Podoplanin、SP-C、Sca-1)の発現変化を検討し定量化する。現在、各々の2重染色を検討中であるが、今後3重染色を行うことで、伸展刺激によるMLE12の詳細な変化を探索する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度の研究計画はおおむね順調に進展しているが、新型コロナウイルス感染症の影響で学会出張等がなくなったことから、旅費等に使用することのないまま2020年度を終えることとなった。また、肺胞隔壁形成を模す機構の解明について、次年度に持ち越しとなった研究計画があるため、次年度使用額が生じた。 次年度には細胞培養を中心に細胞生物学的・分子生物学的実験が必要となる。2020年度分として請求した助成金の次年度使用額分は、2021年度分として請求した助成金と合わせ、細胞生物学的・分子生物学的実験用試薬、培養器具・試薬、抗体の購入などの消耗品費として使用する計画である。
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