マウスを用いた以前の研究により、肺切除後の残存肺における代償性肺再生が起こる際には、肺胞道が拡張し、その後一過性にthyroid transcription factor-1(TTF-1)の発現が増加した後に肺胞隔壁増生(septation)が起こることが示されている。そこで、本研究では、肺胞道に加わる「物理的過伸展刺激」に着目し、培養細胞伸展システム(STREX)を用いたマウス肺胞上皮細胞(MLE12)に伸展刺激を与える実験系を確立した。 MLE12に伸展刺激(伸展率20%、伸展回数15回/分、12時間)を与えると、細胞増殖能を維持したまま2次元方向への細胞遊走が著しく抑制され、それらの細胞はⅠ型肺胞上皮細胞(AT1)からⅡ型肺胞上皮細胞(AT2)へと性質が転換し、その一部は幹細胞性を有していた。 また、伸展刺激を与えることでMLE12の細胞核内における転写因子Xの発現が増加する傾向がみられた。これは、マウスを用いた以前の研究結果と矛盾しない。 以上より、成体において人為的にseptationを起こさせるトリガーとして、「物理的過伸展刺激」と「転写因子X」が関係している可能性が考えられる。
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