研究実績の概要 |
胸腺癌は稀少癌の一つであり、手術による完全切除以外の有効な治療法が確立されていない。 治療標的となり得る遺伝子を検索するために、昨年度、次世代シーケンサーを用いた網羅的な遺伝子解析を行った。その結果、最も高頻度であった変異バリアントはTP53遺伝子変異であった。次いでKIT遺伝子(4例)、PDGFRA遺伝子(3例)であった。低頻度ながらも、これらの遺伝子変異陽性症例はチロシンキナーゼ阻害薬が効果的である可能性が示唆された。また、胸腺扁平上皮癌に絞った予後解析において、KIT、PDGFRA遺伝子を含むチロシンキナーゼ受容体遺伝子群の変異陽性例は、野生型症例と比して有意に予後不良であることを見出した。チロシンキナーゼ受容体遺伝子群の変異陽性例は胸腺癌における予後因子である可能性があり、重要と考えられた。この結果を2021年4月の第121回日本外科学会定期学術集会にて発表した。 また、胸腺癌に対するネオアンチゲン療法を目指し、今年度胸腺癌を含む胸腺上皮性腫瘍192例における5種類の癌精巣抗原(MAGE-A, NY-ESO-1, MAGE-C1, SAGE, GAGE7)の発現を免疫療法にて確認した。これらの癌精巣抗原は胸腺上皮性腫瘍において広く発現しており、MAGE-C1以外の4種類の癌精巣抗原においては、組織学的悪性度が高くなるにつれて、概ね発現率が高くなっていた。またB2/B3胸腺腫において、SAGEとGAGE7の発現例は全生存期間が有意に短縮していた。以上の結果を論文化し、Pathology Internationalにアクセプトされた。
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