本研究において、胸腺癌で治療標的となり得る遺伝子を検索するために、次世代シーケンサーを用いた網羅的な遺伝子解析を行った。まず、胸腺癌および胸腺神経内分泌腫瘍54例のFFPE標本よりDNAを抽出した。DNAの精製および濃度調整をした後、遺伝子パネルを用いてライブラリーの作成および定量/定性を行った。適正なライブラリーを作成した後に、iSeqを用いてシーケンスを行った。最も高頻度であった変異バリアントはTP53遺伝子変異であった。ただし、臨床病理学的因子とTP53との関連は認められなかった。TP53遺伝子変異に次いで高頻度であった変異遺伝子は、KIT遺伝子(4例)、PDGFRA遺伝子(3例)であった。低頻度ながらも、これらの遺伝子変異陽性症例においては、イマチニブを始めとするチロシンキナーゼ阻害薬が効果的である可能性が示唆された。また扁平上皮癌に絞った予後解析において、KIT、PDGFRA遺伝子を含むチロシンキナーゼ受容体遺伝子群の変異陽性例は、野生型症例と比して有意に予後不良であった。以上の結果を第121回日本外科学会定期学術集会において発表した。また論文化し、Clinical Lung Cancerにアクセプトされた。 続いて、胸腺癌に対するネオアンチゲン療法を目指し、胸腺癌を含む胸腺上皮性腫瘍192例における5種類の癌精巣抗原の発現を免疫療法にて確認した。これらの癌精巣抗原は胸腺上皮性腫瘍において広く発現しており、MAGE-C1以外の4種類の癌精巣抗原においては、組織学的悪性度が高くなるにつれて、概ね発現率が高くなっていた。またB2/B3胸腺腫において、SAGEとGAGE7の発現例は全生存期間が有意に短縮していた。以上の結果を論文化し、Pathology Internationalにアクセプトされた。
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