研究課題
下垂体後葉ホルモンの一つであるオキシトシン(Oxytocin: OXT)は、主に、視床下部の室傍核と視索上核の神経分泌細胞で合成され、下垂体後葉より血中に分泌されて、その作用を発揮する。近年では、OXTが抗不安・抗ストレスなどの情動反応に影響するだけではなく、疼痛制御機構にも関与することが示唆されている。本研究では中枢神経系のOXT受容体に焦点を当てて、上位中枢において情動、侵害刺激、そして非侵害刺激に対してOXTが及ぼす影響を野生型および各種ノックアウトマウスを用いて検証した。昨年度、6週齢の野生型マウスWT、オキシトシンノックアウトマウスOxt-/-、受容体ノックアウトマウスOxtr-/-、そして受容体ノックアウト部位に蛍光タンパクVenusをノックインしたマウスOxtrVenus/+を用いて、動物実験を行なった。行動試験としては、Open field試験、Light/Dark試験、Hargreaves試験、von-Frey試験を行い、情動反応、侵害刺激および非侵害刺激に対する反応へのOXTの影響を観察した。本年度は有意差を認めたHargreaves試験とvon-Frey試験後の脳切片標本に対して、神経活性化マーカーc-fosに対する抗体を用いてOXT受容体との共局在を検討した。OXTが中脳水道灰白質を介して鎮痛作用を、扁桃体内側核および側坐核を介して情動に対する作用を及ぼすことを、各種ノックアウトマウスを用いて検証を行った。昨年度は、この研究結果を論文としてまとめるに至った。
3: やや遅れている
行動実験および免疫組織学的評価を終え、論文としてまとめるには至った。しかしながら、本学の動物実験施設の移動に伴い、繁殖ケージの刷新を求められた。新しい繁殖ケージではOxtrVenus/+以外、次世代の出生がなかなか得られず、これから先の実験には影響を及ぼすことが懸念されるため。
まずはオキシトシンノックアウトマウスOxt-/-、受容体ノックアウトマウスOxtr-/-を早急に繁殖させることが専らの課題である。もしメスの繁殖期が過ぎてしまった場合には、野生型のメスと掛け合わせることでなんとか遺伝子を次世代へ継承させる、ないし体外受精なども検討する。繁殖がうまくいった暁には、免疫組織学的に有意差があった脳部位において、ウエスタンブロッティングの技術を用いて、野生型と各種ノックアウトマウスを定量的に比較する。また電気生理学的な脳機能研究も行い、最終的にはOXT関連鎮痛および抗ストレス薬の検索と効果を検証する。
本年度の実験動物は、昨年より飼育を行っていたものもある程度使用したため、本実験動物の購入費用は当初予定額より少なく済んだ。次年度は、実験動物の購入やウエスタンブロッティング施行に必要な器材の購入、またさらなる論文投稿に向けて英文校正にあてる予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Biochem Biophys Res Commun
巻: 574 ページ: 8-13
10.1016/j.bbrc.2021.08.042.