急性腎障害(AKI: Acute Kidney Injury)は急性期医療の現場で高率に遭遇し、高い致死率が大きな問題となる。AKIは一過性の病態であり、一定期間後に腎機能は完全に回復すると考えられてきたが、近年、AKIを発症した患者が長期的に慢性腎臓病(CKD: Chronic Kidney Disease)や末期腎不全へ移行することが報告されている。横紋筋融解症によるAKIは、血液中に放出されたミオグロビンが尿細管上皮細胞に発現しているエンドサイトーシス受容体であるメガリンにより再吸収されることが一因とされ、CKDに進展する可能性が報告されている。これまでにメガリン受容体阻害薬であるデヒドロペプチダーゼ-1阻害薬のシラスタチンにより横紋筋融解症後のAKIが軽減されることが報告されているが、その長期効果に関しては不明であり、今回検証を行った。 マウスの両側大腿にグリセオールを投与し横紋筋融解症モデルを作成し、24時間後にシラスタチンを投与した。モデル作成60日後に糸球体濾過量 (GFR)測定を行い、マッソン・トリクローム染色、蛍光免疫染色により組織の線維化の評価を行ったところ、平均GFRに関してはシラスタチン投与によって改善はなかったが、マッソントリクローム染色にて、シラスタチン投与群で有意に線維化が軽度であった。尿中タンパク量、微量アルブミン量に関してもシラスタチン投与群で減少傾向であった。 以上の結果から横紋筋融解症発症後にメガリンによるミオグロビンのエンドサイトーシスを阻害することにより、AKIのみでなく長期的な腎線維化の予防が可能である可能性が示唆された。
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