本研究では、幼若脳麻酔薬神経毒性の病態に腸内細菌叢、脳腸相関が関わることを明らかにし、幼若脳麻酔薬神経毒性の予防法・治療法として、腸内細菌叢正常化の可能性を見出すことを目的とした。 実験1:幼若ラットをControl(C)群:セボフルラン曝露を実施しない群、Sevo(S)群:生後7-13日にセボフルラン2.1% 2時間の曝露を連日実施する群に分け、生後21日目に糞便を搾取した。採取した糞便を用いて、糞便細菌叢解析を実施した。 実験2)幼若ラットをSevo(S)群:生後7-13日にセボフルラン2.1% 2時間の曝露を連日実施する群と、Sevo+FMT(SF)群:生後7-13日にセボフルラン2.1% 2時間の曝露と健常ラットからの糞便細菌叢移植(FMT)を連日実施する群に分け、生後28日から行動実験を実施した。検体は生後21日に糞便および海馬、行動実験終了後に海馬を採取した。糞便は糞便細菌叢解析および糞便中有機酸解析、海馬はrt-PCR、ヒストンアセチル化解析、免疫組織学的検査およびTUNEL染色による神経細胞アポトーシス評価を実施した。 実験1の結果、幼若ラットに対して、生後7-13日の連続7日間、セボフルラン2.1% 2時間の曝露を行うことにより、生後21日の腸内細菌叢において酪酸産生菌であるFirmicutes門、Ruminococcus科が減少することを明らかにした。 実験2の結果、健常ラットからの糞便細菌叢移植を行うことで、セボフルラン曝露によって減少したFirmicutes門、Ruminococcus科および酪酸産生菌の割合が増加するとともに、糞便中酪酸濃度、海馬におけるヒストンアセチル化、BDNF遺伝子発現量増加、神経細胞アポトーシス減少、成長後学習能力改善を認めた。本研究により、幼若脳麻酔薬神経毒性に対して、腸内細菌叢の是正から学習障害改善を期待できる結果が得られた。
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