ミオスタチンと術後認知機能障害との関連をみるにあたり、当初ミオスタチンを連日皮下投与することでモデル動物作成を計画していた。しかし、試薬代高騰により、予算内で十分なサンプル数を得ることが難しくなり、ミオスタチンノックアウトマウス (myostatin -/-)を作成、継代することで研究目的を達成することに変更した。 ヘテロ型ミオスタチンノックアウトマウス (myostatin +/-) をコントロールとし、ホモ型mystatin-/-との術後認知機能比較を行った。比較群は手術の有無、ヘテロ型/ホモ型の4群に分けた。雌雄混合12か月齢マウスを使用し、モーリス水迷路 (MWM) 及び恐怖条件付け試験 (FCT) より認知機能評価を行った。ベースラインとして手術前に記憶獲得をさせた後に手術/麻酔侵襲を加えた。手術後11日目より術後認知機能評価連日5日間行った。MWMはゴールまでの遊泳距離、遊泳平均速度、遊泳時間の推移を比較し、最終日にはゴール周囲の滞在時間を計測するprobe試験も併せて行った。FCTではcue testとcontextual testの2種類を手術後11日目に計測した。 MWMでは、mysotatin-/-マウスにおいてmyostatin+/-よりも有意に手術後遊泳時間や遊泳距離が短縮された。また、FCTではcontextual testにおいて手術侵襲を加えたmyostatin-/-群と比較して手術侵襲ありmyostatin+/-マウスよりも長時間の竦み時間が得られた。 手術後行動試験後に採取した海馬より計測した脳由来神経栄養因子はmyostatin-/-マウスの方がmyostatin+/-マウスより高濃度であった。 以上より、ミオスタチンが術後認知機能へ影響する一因子となることが示唆された。
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