研究実績の概要 |
手術中の侵害刺激に対する全身麻酔下脳波変化として,β波の増強, δ波の増強, α波の消失が知られている。しかしながら,これらの脳波変化と術後痛との関連は十分に調べられていない。さらに我々は遷延性術後痛患者の手術中脳波変化から,θ帯域の増強に着目し,手術中脳波変化と急性・遷延性術後痛との関連を調査している。 長期オピオイド服用患者の手術中脳波変化について現在論文にまとめている。 長期オピオイド服用患者は麻薬耐性・痛覚過敏から,術中・術後のオピオイド投与量の調節, 術後鎮痛に難渋する。長期オピオイド服用患者における開腹手術中の前額部脳波を解析したところ,麻酔導入後は全身麻酔に特徴的なα-δ波が見られたが,手術の進行とともに,α波が減弱消失し,θーδ波が増強した。手術終盤になり, 巨大δ波が出現し,オピオイドの増量では抑制できない血圧の上昇を認めた。オピオイドとは作用機序の異なるケタミンにより,巨大δ波は消失,循環動態は安定した。術後はケタミンを併用したオピオイドの持続静注により良好な術後鎮痛を得た。本症例では,侵害刺激に対する脳波変化として,δ波の増強,α波の消失を確認できた。またθ波の増強も確認された。さらに,手術中脳波変化はオピオイド,ケタミンなどの鎮痛薬に対する不応性や反応性を反映していることが示唆された。これらのことより,術中脳波変化は侵害刺激を反映し,術中脳波変化を指標とした鎮痛法の調整により術後痛を緩和できる可能性が示唆された。
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