研究課題/領域番号 |
20K17835
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
中森 裕毅 三重大学, 医学系研究科, リサーチアソシエイト (80815994)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | プロテオミクス / 術後せん妄 / POD / 脳脊髄液 / Myokine / FNDC5 / Irisin |
研究実績の概要 |
TEVAR(thoracic endovascular aortic repair)の際に対麻痺目的で予防的に挿入した脳脊髄液ドレナージカテーテルから経時的に採取した脳脊髄液を用いてプロテオーム解析を行った。脳脊髄液中のタンパク濃度は血液と比較して200分の1ほどと薄いが、限外濾過とAlb・IgGを除去することにより、プロテオミクスに耐えうるサンプルを精製することに成功した。経時的なサンプルでのバイオマーカー探索においてはiTRAQ(Isobaric Tag for Relative and Absolute Quantitation)に比してSWATH(Sequential window acquisition of all theoretical fragment ion spectra)の有用性が示されている(Jylha; et al. Clin Proteom (2018) 15:24)。三重大学にSWATH法によるタンデムMS解析が可能なTripleTOF 6600+が納入されたので、iTRAQではなくSWATHによるプロテオーム解析を施行することができた。その結果、ヒトの脳脊髄液内の561種のタンパクを同定した。その中には、FNDC5(Fibronectin Type III Domain Containing 5)という近年骨格筋が代謝を制御するという観点から着目されているMyokineも含まれていた。全身麻酔後のせん妄には術中や術後安静による、骨格筋収縮頻度の減少に伴う筋から放出されるMyokineの減少が影響している可能性がある。ここまでの研究でMyokineが血液脳関門を超えて、脳脊髄液内に含まれていることを見出した。しかしながらMyokineの血液脳関門透過経路は不明であり検討を要する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
血液検体に比べてタンパク濃度が薄い、倫理的に採取できる機会が限られる、採取時に一定の確率で血液の混入が不可避、という課題のある人の脳脊髄液検体であるが、SWATHによるプロテオーム解析を実施できた。さらに、同定されたタンパクの中には、PODの発生に筋肉脳の連関があるという仮説に基づくMyokineが含まれていた。FNDC5は近年、骨格筋が他臓器の代謝を制御するという観点から着目されている。非常に検体数が限られる中で、一年目にこのような結果を得られたため、順調に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
臨床検体から、Myokineが見出された。一方で、対象とした患者でPODを発症した例はなかった。TEVARの低侵襲性の影響もあるかもしれない。 また、上述の通り太い脳脊髄液カテーテルから採取する脳脊髄液の信頼性は必ずしも高くなく、臨床検体のみではなく、in vitroまたはin vivoでの検討も有用かもしれない。Cell LineとしてC2C12を用いて、FNDC5/Irisinに着目しての研究を検討している。 脳脊髄液内にFNDC5が含まれている理由の解明のために、血管内皮細胞を用いた研究も今後検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:採取した脳脊髄液検体の多くが、肉眼的にわずかに血性であった。プロテオーム解析は一回あたりの費用が高額であるので、供するサンプルを厳選した結果、当初予定したほどのサンプル数にいたらず、想定していたより使用額が少なくなった。 使用計画:Myokineが脳脊髄液に含まれることを見出した。in vitro、in vivoでの実験系を確立するために用いる。in vitroでは、骨格筋のcell lineとしてC2C12、脳血管内皮のcell lineとしてbEnd3を購入して使用する予定である。qPCRのprimerや、western blottingの抗体や試薬一式の購入にも多額の費用がかかることが見込まれる。
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