研究実績の概要 |
インスリン療法によるPI3K-Akt経路の改善が好中球機能の改善のメカニズムに関与するかどうかを調査した。 好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps:NETs)はAkt経路と関連している可能性がありNETsをターゲットに研究を行った。NETs産生能は慢性高血糖マウス群(DM群)と比較してインスリン介入群(DM+insulin群)では有意差は認められなかった(各群n=4, p=0.057)が、低下する傾向があった。また、好中球刺激剤であるPMAで刺激した場合も同様の結果が得られた。以上の結果よりインスリン療法はマウス好中球のPI3K-Akt経路に関連がある可能性が高いと考え、マウス好中球のAktの発現について検討した。コントロールに比べて、DM群ではリン酸化Akt(Thr308)の発現が低下した。DM+insulin群は、DM群と比べてリン酸化Akt(Thr308)発現の変化を認めなかった。リン酸化Akt(Ser473)の発現は各群で変化を認めなかった。同様の実験を複数回行ったが、一貫性を認めなかった。マウス好中球のタンパク量は少なくシグナル伝達を調べることは難しいと考えられ、HL60細胞(好中球に分化するヒト白血病細胞株)を用いて、貪食実験、リン酸化AktまたはAktの発現実験を行った。貪食実験ではPI3K阻害薬(LY294002)で処理すると、分化HL60細胞の貪食率は低下した。高グルコース培地で培養した分化HL60細胞はLPSやLPS+インスリン刺激を行うことで、Aktの発現が増加した。 以上よりIn vitroで分化HL60細胞のAktの発現が増加すると、分化HL60細胞の貪食能が増加する可能性がある。糖尿病患者の術前の適切な血糖管理方法を模索するために、感染防御の最前線で機能する好中球の機能の解明は欠かせない。
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