本研究の目的は、低体温療法の脳保護作用の分子基盤を明らかにするため、中枢神経系のグリア細胞であるミクログリアに着目し、ミクログリアが温度感受性 TRPチャネルを介して温度を感じて細胞機能(遊走)を変化させること、及びそのメカニズムを明らかにすることである。令和3年度までに、初代培養マウスミク ログリアの運動には温度依存性があること、in vivo imagingによりミクログリアの突起運動にも温度依存性があり、温度感受性TRPチャネルサブタイプのTRPV4 がより関与する結果をえ、発表した(Nishimoto and Derouiche 2021)。また、マウスミクログリア初代培養を用いた実験において、別の温度感受性TRPチャネルTRPM4の関与が示唆されていたものの、RNA干渉法によるTRPM4遺伝子ノックダウンでは解析できなかったことから、CRISPR/Cas9システムを用いてTRPM4遺伝子欠損マウスを作製した。TRPM4遺伝子欠損マウスからのミクログリア初代培養について、タイムラプスイメージングを用いて細胞運動解析を行なった結果、野生型と同様、TRPM4遺伝子欠損ミクログリアの動きは温度依存的であった。以上より、ミクログリアの温度依存的細胞運動には、 TRPV4がもっとも関与すると考えられた。本研究の結果から、ミクログリアの運動制御機構として、体温による運動変容およびTRPV4活性のコントロールによってミクログリアの運動を制御できる可能性が示唆された。得られた結果をまとめ、論文投稿予定である。申請者の海外留学のため、令和5年度途中から本研究の中断を申請し、受理された。
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