本研究で、リポポリサッカロイド(LPS)を腹腔内注射した敗血症マウスモデルにおいて、β3アドレナリン 受容体(β3AR)刺激が心筋NO産生をレギュレーションしている事を発見した。LPSは、マウス心筋β3ARの発現および心筋NO産生を増加させた。また、LPS投与後にβ3AR刺激薬(CL316243)を投与する事で心筋NO産生はさらに増加し、β3AR遮断薬(SR59230A)はLPSによる心筋NO産生を抑制させた。さらに、心筋ATP合成に関わる心筋ミトコンドリアのcomplex Ⅰ-Ⅴを抽出してウェスタンブロットを行ったところ、LPS投与群でcomplex Ⅰ-Ⅴの発現が低下し、β3AR刺激群ではさらに低下した。一方、β3AR遮断群ではATP産生を改善した。すなわち、β3AR遮断は敗血症における過剰な心筋NO産生を減少させて心筋代謝障害を抑制する事で、敗血症性心筋症を改善して予後を改善する可能性を見出した。また、さらなる実験で、β3ARは誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)をレギュレーションしている可能性が考えられた。ラット心筋細胞(H9C2)を用いたin vitro実験において、LPSを負荷するとβ3ARの発現が増加し、iNOS発現とNO産生が増加した。さらに、siRNAを用いてのβ3ARノックダウンによって、iNOSおよびNO産生は抑制された。ただし、LPS負荷群とβ3ARノックダウンしたLPS負荷群ではNF-κBの発現に変化を認めなかった。この事は、iNOS-NO産生に関して、NF-κB経路に依存しておらず、β3AR独自のNO産生経路の存在が示唆された。したがって、心筋β3ARはNO産生をレギュレーションしている可能性があり、これは敗血症性心筋症に対する新たな治療戦略に結びつく可能性がある。
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