血管内皮の表面はプロテオグリカンや糖タンパク質などにより構成されるグリコカリックス(GCX)に覆われており血管の恒常性が維持されている。糖尿病モデルマウスを用いた先行研究では感染時に炎症細胞の遊走が遅延し炎症が遷延することが示されており、同時にGCXの構成成分であるヘパラン硫酸の合成に必須の酵素であるEXT-1の発現が低下することが明らかとなった。今回、血管内皮特異的にヘパラン硫酸の産生を低下させるマウスを用いて血管内皮におけるヘパラン硫酸の減少と炎症の関連について検討した。EXT-1 flox/floxマウスにVascular Cadherin Specific CRE 強発現マウスを掛け合わせ、EXT-1を血管内皮特異的にノックアウトして血管内皮GCXの構成要素が欠損したマウス(VCRE-EXT1KOマウス)を作成した。このマウスにレクチンと抗CD31抗体を用いた二重染色と硝酸ランタンを用いた走査型電子顕微鏡による観察を行い、肺組織におけるGCXの形態学的変化を経時的に観察した。また、リポ多糖(LPS)を15 mg/kg腹腔内注射して敗血症性血管炎を惹起し、採取した肺組織において免疫染色での炎症細胞数計測を行った。レクチンとCD31による二重染色および走査型電子顕微鏡による観察ではVCRE-EXT1KOマウスにおいて肺の血管内皮GCXが減少していることが確認できた。このマウスにLPSを投与すると、投与後24時間の時点で肺における炎症細胞浸潤が明らかに増加していることが確認できた。この結果、血管内皮におけるヘパラン硫酸の減少は組織の炎症増悪に関与する可能性が示唆された。
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