本研究では「クライシス・コミュニケーションの量的・質的な違いが、医療者のウェルビーイングと睡眠リズムにどのように影響するのか」という学術的な問いに、多角的なウェアラブルによるモニタリングを活用して取り組む。名刺型ウェアラブルにより収集したデータを解析することにより、重症患者マネジメントのストレスが医療従事者コミュニケーションに与える影響を、多職種間ソーシャル・ネットワークの構造変化に注目して検討する。さらにメンタルヘルス不調の前兆である「主観的ウェルビーイング低下」と「睡眠リズムの乱れ」を、それぞれモバイルデバイスによるオンラインサーベイと腕時計型ウェアラブルでモニタリングし、関連性を検証する。 ICUに勤務する医療従事者(医師・看護師・臨床工学技士・看護助手など多職種)のべ247人に対して2016年から2018年にそれぞれ4週間名刺型ウェアラブルセンサーを装着して対面式コミュニケーションの定量的測定を行なった。ネットワーク解析を行い、各年を比較したところ協働型リーダーシップを取ることにより情報発信者が増加し、さらに質問票(CES-D)によって調査した幸福度が上昇していることがわかった。 2020年から2023年にかけてICUに勤務する医師・看護師のべ105人に対して、腕時計型ウェアラブルセンサーにより睡眠や活動量などの生体情報およびアンケートによるウェルビーイングとバーンアウト症候群の情報を5週間取得した。機械学習の手法を用いて、高い精度でウェルビーイングを予測することができ、睡眠時間が重要因子であることが明らかとなった。またウェアラブルセンサーの情報からバーンアウト症候群のハイリスク群を予測できることも示した。2交代制・3交代制のシフトの違いやICU重症度(職場環境因子)の影響を加味してさらに精度の高い予測式を構築する予定である。
|