最終年度では、これまでのくも膜下出血(SAH)後の急性脳損傷(EBI)と腸内細菌との関連についての研究結果をまとめ、学会や論文で報告した。 研究は、まず、7週齢の雄ラットに多剤抗生剤を2週間投与し、腸内細菌叢を変化させた(抗生剤群)モデルを作成した。抗生剤終了4日後(SAH導入直前)に糞便中細菌叢の16S rRNA遺伝子を解析し、菌叢を分類した。抗生剤群の腸内細菌叢は同齢の正常群と比較して、多様性や菌叢分布に有意な差を認めた。これによって腸内細菌叢を変化したモデルを作成することができた。さらに、抗生剤を投与した後に、正常腸内細菌叢を移植することで、正常腸内細菌叢に戻すモデルを作成した(FMT群)。同モデルについても16S rRNA遺伝子を解析し、正常群と同じ腸内細菌叢になっていることを確認した。 次に、これらのラットにSAHを導入し、発症24時間後に両群のEBIを比較した。脳浮腫、血液脳関門の破壊、神経細胞のアポトーシスなどは正常群と比較して、抗生剤群で有意な軽減を認めた。FMT群では、このEBIに対する予防効果は消失しており、抗生剤自体の影響ではないことを示した。また、炎症細胞について調査すると、 抗生剤群では炎症細胞のうち、特に好中球の脳内への浸潤が阻止されていた。また、この好中球に対する予防効果は発症直後からあることを確認した。これらの結果から、腸内細菌叢はEBIに関連していることを示した。
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