緊急被ばく医療分野では、医療者の業務従事に対する不安やストレスを原因とする人材不足が懸念されている。不安/ストレスのため被ばく医療へ従事する意志は低下し、当該分野の人材不足に繋がっている。また人材不足のため教育活動は脆弱化し、医療従事者が放射線関連の基本的知識や経験を得る十分な教育機会が喪失することで、緊急被ばく医療に従事する際の不安/ストレスが解消されないという、負の連鎖が生じていると予想される。本研究はその負の連鎖を断ち切るため不安/ストレスに着目し、効率的に不安/ストレスを取り除く手段を検討する目的で実施した。 これまでストレスは質問紙票などで行う主観的な評価が主体であった。しかし今回新たに開発されたシャツ型心電計を用いることで、緊急被ばく医療対応中の医療者が受けるストレスを、心拍変動から導き出されるストレス値として、客観的かつ経時的に定量化することに成功した。本研究では医療者が被ばく医療訓練中に行っていた作業別にストレス値を算出した。作業内容別にみると、除染作業中に被るストレスが最も高く、緊急被ばく医療対応中のストレスを効率的に低減するためには除染作業について重点的に教育・訓練を行うことが重要であることが客観的に示された。一方で防護衣着脱時にはストレスフリーとなっており、気が緩むことで自身の汚染につながる可能性も示唆された。 今後は一般の医療者においても、緊急被ばく医療に従事する際の不安やストレスを払拭するような教育・啓発活動が求められる。そして上述の負の連鎖を断ち切り、当該分野に従事する人材の安定供給につながることを期待する。
|