研究課題/領域番号 |
20K17899
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
中西 信人 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 助教 (20793376)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 神経筋電気刺激療法 / 筋肉 / 超音波 / タイチン / 振動療法 / リハビリ / 社会復帰 / 筋萎縮 |
研究実績の概要 |
2020年11月には重症患者における神経筋電気刺激療法に関する無作為化比較試験の第1弾の結果を報告しました(Nakanishi et al. Crit Care Med. 2020 Nov;48(11):e997-e1003)。重症患者のICU入室急性期に神経筋電気刺激療法を用いることで重症患者の上下肢の筋萎縮を予防でき、筋崩壊を抑制して、入院期間が短縮することを報告しました。その成果も集中治療医学会のシンポジウムで発表しました。しかし、これから神経筋電気刺激療法を継続していくためには多くの課題があることが分かりました。神経筋電気刺激療法を行おうとしても実際には浮腫で神経筋電気刺激療法の電気刺激に反応しない場合や痛みのため離脱する患者さんもいました。そのような場合に神経筋電気刺激療法に振動療法も併用して相乗効果があると考えております。そのため振動療法の機器も購入しました。さらには本当に筋萎縮を正しく評価できているのか、今後の神経筋電気刺激療法のアウトカムの正確性を担保するための取り組みも必要であることが分かりました。超音波の測定は測定方法など技術を要します。そのため超音波で筋肉を正確に測定するためのトレーニングファントムモデルを作成しました。これはファントムモデルを専門に作成している京都科学と協力して作成致しました。また超音波には技術という大きな壁があることが分かり、超音波以外にも筋肉量を評価する方法を明らかにするために、筋萎縮評価に関するも総説を執筆しました。今後神経筋電気刺激療法の介入を継続するにあたって、様々な方法での筋萎縮評価や尿中のタイチンなどを用いてより正確に神経筋電気刺激療法の効果を明らかにしていきたいと考えております。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
神経筋電気刺激療法の第一弾の論文を出版することができました。まだ約40人を対象とした研究で予備的な研究です。第二弾の大規模な研究が必要だとは思いますが、少なくとも重症患者において神経筋電気刺激療法が筋崩壊を抑制して、筋萎縮を予防できることが明らかとなりました。しかしまた新しい課題が浮き彫りとなりました。本当に正しく筋萎縮を評価しているのか。神経筋電気刺激療法で筋肉が反応しない患者さんはどのようにするのか様々な対応が必要です。特にICUに入室する重症な患者さんは浮腫のために神経筋電気刺激療法に反応しないことがよくあります。そのため現在では第二弾の研究前に筋萎縮の正しい評価方法を再度検討しております。正しい評価ができなければ、介入試験を行ったとしてもその効果を評価できません。今回の報告(Nakanishi et al. Crit Care Med. 2020 Nov;48(11):e997-e1003)は徳島の2施設のみで行いましたが、今後多施設無作為化比較試験をしていくうえで、どのように筋萎縮の評価を行っていくかが大きな課題です。例えば超音波は技術により左右されるため多施設研究を行うためには測定方法を普及させる必要があります。そのために方法について超音波の測定方法をまとめたり、測定技術の向上に先に努める必要があります。具体的には超音波のファントムモデルを作成して、実際に教育効果があるのかの研究も行っております。超音波での正しい筋萎縮の測定方法を確立しなければ介入する意味がありません。また超音波のみでなく、尿中のタイチンという物質により筋萎縮の評価ができないか検討も行っております。今回の学術研究で予期していなかったことはこのように筋萎縮の評価方法をどのように統一するかが一番大きな事でした。しかし、しっかりと筋萎縮の評価方法を統一することで、より大きな介入試験に組り組んでいきたいと考えております。
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今後の研究の推進方策 |
現在では小規模の報告しかできておりませんので、今後はさらに対象や施設を拡大して現在の研究「若手研究・中西信人・ICU入室患者の上下肢神経筋電気刺激療法:筋力、代謝、長期予後に与える影響」を継続していきたいと考えております。特に長期予後にどのような影響を及ぼすか検討できておりません。今年度の報告で短期的には重症患者の上下肢の筋萎縮を予防して筋崩壊も抑制できることが分かってきました(Nakanishi et al. Crit Care Med. 2020 Nov;48(11):e997-e1003)。しかし、そのことが患者さんの長期予後を改善するかどうかはさらなる介入試験が必要です。重症な患者さんはICUを退室して、退院したとしても全ての患者さんが自宅に帰れて、もとどおりの生活に戻れているわけではありません。そのことを集中治療後症候群(PICS:Post Intensive Care Syndrome)と言います。集中治療後症候群を予防するためには急性期からのシームレスな取り組みが必要です。現在では長期予後を精査するために長期的なフォローアップができるシステムを探索しております。PICS外来といい長期的なフォローをできる方法もありますが、重症であればあるほどPICS外来に通うことができません。実際に介入を行ってからPICS外来でフォローできなければ研究自体が成り立ちません。一方で最近では電話で長期的なフォローを行う方法もありますが、実際の身体機能のフォローができません。どのように神経筋電気刺激療法の長期的な効果をフォローするかが現在の大きな課題です。長期的な筋崩壊にタイチンという尿中の物質が役に立つと考えてその方法論をまとめて総説として出版もしております(Nakanishi et al. J Clin Med. 2021 Feb 6;10(4):614.)。今後はこの尿中のタイチンという物質も用いて神経筋電気刺激療法の長期的な効果を検討していく予定です。
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