背景:重篤な肝損傷を伴う肝背側下大静脈損傷に対して大動脈遮断バルーン(REBOA)および下大静脈クランプ(IVCクランプ)を用いることがあるが、これらのデバイスを使用した際の静脈系血流の変化を検討した研究はほとんどない。本研究では、ブタによるショックモデルを作成し、REBOAおよびIVCクランピング時の大静脈血流の変化を明らかにすることを目的とした。 方法:全身麻酔下の6頭のブタに、7FrのREBOAをゾーン1で留置、IVCの肝臓近位側と遠位側のレベルにRummel止血帯を設置した。全血液量の20%を瀉血した後、①介入なし(コントロール)、②REBOAのみ、③REBOAとIVCクランプ、④IVCクランプのみの4群で上大静脈(SVC)とIVCの血流とバイタルサインを測定した。 結果:①の肝上部血流は0.93±0.055,肝下部血流は0.098±0.025,SVC血流は0.33±0.067(平均±SD,L/min)。②では、各部位の血流量はそれぞれ0.27±0.13(ベースラインの29%)、0.078±0.13(80%)、0.95±0.31(2.9×102%)であった。③では、各部位の血流量はそれぞれ0.021±0.043(2.3%)、0.00033±0.00064(0.34%)、0.37±0.12(1.1×102%)であった。 バイタルサインは②で改善を示したが、③では改善しなかった。④では切迫心停止となり実験を中断した。 結論:②ではバイタルサインは改善したが、静脈還流量は不変。③ではバイタルサインも静脈還流量も改善しなかった。④では、バイタルサインの維持が困難であった。重篤な肝損傷を伴う肝背側下大静脈損傷に対しては、REBOAに加えて速やかに静脈シャントを行うことが理想的な手技である可能性がある。
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