研究課題/領域番号 |
20K17926
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
松原 博文 岐阜大学, 医学部附属病院, 医員 (00800244)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 出血性脳卒中 / フェロトーシス / 急性脳障害 |
研究実績の概要 |
In vivo系においてナイロン糸を用いた穿孔型SAHモデルを確立した。SAH後に生じる微小血管障害と白質障害の関与についてはこれまでに報告しているが、まずは微小血管障害と深い関連が予想される脳血流(CBF)について検討した。結果、SAH後に生じる早期CBF低下がSAH導入1日後の神経症状悪化に寄与していることが判明し、これについてはすでに論文化している(JCCVD 2020)。さらに、早期CBF低下がもたらす影響について、亜急性期までの生存率、神経学的所見、高次脳機能障害への影響についても同様のマウスモデルを用いて検討を行った。結果として、SAH後の血流低下の遷延が、生存率、神経学的所見、高次脳機能障害の悪化に関連していることが見出されている。さらに、早期CBF低下は脳皮質の炎症細胞誘導を惹起し、血液脳関門破綻に寄与していることも証明されており、上述の内容については現在論文投稿中である。In vitroの検討においては、SAH後の状態を模した低酸素およびトロンビン負荷を用いた実験系を確立した。ヒト脳微小血管内皮細胞、神経芽細胞を用いた評価ではともに活性酸素種(ROS)の上昇を認めており、In vitroではSAHによるferroptosisの影響と判断している。また、この実験系においてはferroptosis関連因子の発現上昇も認められ、一定の傾向を示している。今後は様々な時間経過でのROS産生の評価および、ferroptosis阻害剤であるferrostatin-1を用いたROS軽減の影響について検討中である。上述In vitroでのferrostatin-1の影響を確認後、In vivoでのferrostatinを用いた検討を行い、CBFや微小血栓、白質障害との関連および、in vitroで確認された因子の影響について検討を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまではSAH後に認めるCBFの低下と急性期神経所見の関連についてすでに論文化させ、同様に亜急性期の神経所見との関連について論文投稿中である。また、SAH後に生じる微小血栓についてはトロンビンを用いたウエスタンブロットでその上昇を確認できており、今後は微小血栓がどの部位、どの時間帯で生じるかを検討できる段階である。低酸素+トロンビン負荷を用いたin vitroでの検討において、ヒト脳微小血管内皮細胞、神経芽細胞を用いた評価ではROSの上昇については再現性も確認できており、FerroptosisとSAH後の関連についてはIn vitroでのferrostatin-1の効果を確認出来次第、In vivoでの検討を行う予定としている。
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今後の研究の推進方策 |
Ferrostatinによる脂質過酸化・鉄蓄積の軽減がSAH後の早期脳障害軽減につながることが報告されており、この再現性を確認するとともに、白質障害や微小血栓とのFerroptosisの関連をin vivoモデルを用いて検討を行う。SAH後の問題としては高い死亡率や麻痺などの後遺症の遷延に加え、高次脳機能障害の低下が挙げられるが、早期のみならず、長期評価を行うことで、ferroptosisと高次脳機能障害の関連についても検討を行う。また、ferrostatin-1の有効性については、脳室内投与で報告されており、今後の臨床応用を目指す上では、静脈内投与もしくは経口投与、腹腔内投与での有効性を示すことが望ましいため、これらの投与法を中心に評価を行う。さらに、これらの結果についてより詳細なメカニズムを解析、検討するため、in vitro系も併せて用い、細胞内シグナルの解明を目指す。一方、ferroptosis関連因子中には、SAH後脳損傷に重要な影響をもたらすことが予想されるため、悪化のメカニズムやこれらの因子の制御による神経保護作用の可能性の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年に行われた緊急事態宣言の影響をうけ、実験に必要なマウスの搬入に長期間の制限が生じ、十分な実験を行うことが困難な状態が継続した。また、今回標的としている出血性脳卒中のうち、くも膜下出血マウスモデルにおいてはマウスモデルの確立から始める必要があったこと、In vitroの実験系にくも膜下出血模倣モデルの確立を行う必要があり、実験系の主座であるFerroptosisとの関連に関する実験に遅延が生じた。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、学会開催の延期やオンラインでの開催などの影響もあり、次年度使用額が生じた。本年度においてはこれまでに確立した実験モデルを用いてFerroptosis関連因子の抗体、Ferropstatin-1などの必要薬剤の購入を含め、実験を早急に進める予定である。
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